創作

【ポエム】・「ひょっとこ師たち」

バイトをすることになった。

バイトの内容は、ベルトコンベアに乗せられて流れていくひょっとこの、
お面の眉毛を次々と書いていく、というもの。

ちなみに、ひょっとこのお面にとって最も重要な「とんがった口」は、その道のプロが接着する。
こういう人は仕事場に2、3人いて、バイトと違って非常にプライドが高い。

バイトは午前9時に集合というのが決まりで、1分でも遅刻したら時給を減らされる。
ところが、ひょっとこのとんがった口を接着する人たちは、午前11時頃、のんびりと出社してくる。

手には、スターバックスのコーヒーか何か持っちゃって。

バイトはテキパキしないとすぐ怒られるが、ひょっとこのとんがった口を接着する人たちは、
午前11時頃に出社してからも、さらに30分くらい、タバコを吸う休憩所みたいなところでダラダラし、
午前11時半を過ぎたところで、
「そろそろやるかあ」
などと言いながらそれぞれが配置に付く。

それまで、午前9時からバイトが眉毛を書いておいたひょっとこのお面が山積みになっている。
それを、「ひょっとこのとんがった口を接着する人」たちが手に取り、
次々ととんがった口を接着していく。

その手際は目をみはるようで……なんてことにでもなればバイトの連中も黙っているのだが、
どう観ても「おれでもできんじゃねえの?」程度の手際なのが恐ろしいところだ。

中には接着したひょっとこの口がズレちゃっているものがある。

検品をするのはまた別の係の人の役目で、
それはウチの工場では一名。
やせぎすで頭の禿げ上がったおじさん(正社員)がやっている。

が、どういうわけか「ひょっとこのとんがった口を接着する人」たちに、この人はかなり遠慮がちで、
バイトの我々にはかなり率直に物申してくる。

「どうしてそんなに『ひょっとこのとんがった口を接着する人たち』は、優遇されているのか?」

疑問に思って、仕事帰りに資料室に寄り(そういうところがあるのである)、
「日本ひょっとこ史」
という本を読んでみた。

「日本ひょっとこ史」によると、
ひょっとこのお面の製作を各部位によって分担することにしたのは、
明治時代に入ってから。

西洋から帰国したひょっとこ師(ひょっとこのお面をつくる職人)が、その方式を取り入れたのだという。

彼が近代ひょっとこの父・タコヤキ三太郎である。
(ちなみに、タコヤキ三太郎はたこ焼きの歴史にはまったく関係がない。大学のゼミの試験でここを間違えると確実に単位は取れない。)

ここからがややこしい。
タコヤキ三太郎の娘婿である、セクシュアリティ二郎は、日本ひょっとこをますます発展させるため「日本ひょっとこ学院」を設立。
タコヤキ三太郎はこのことをよく思っておらず、ひょっとこ師の育成はあくまでも従来の徒弟制度によるものであるべきとした。

このため、「分担制度を導入したにもかかわらず、学校の設立と徒弟制度が両立する」というおかしな状態になり、「日本ひょっとこ学院」では「ひょっとこのとがった口の部分」だけの修得が許され、他の部位はまったく別の育成システムにより修得されるという、ねじれ現象が起こってしまったのである。

「ひょっとこのとがった口の部分を接着する人々」のプライドが高いのは、「日本ひょっとこ学院」を卒業しているという誇りと、その反面、「ひょっとこ製作のすべてには関われない」というコンプレックスから来たものであるようだ。

とまあ、そんなことを知っても仕事に変わりがあるわけでなし、私はバイト仲間とはつるんだが、プライドの高い「ひょっとこの口の部分を接着する係」の連中とはあまり関わりを持たなかった。

ある日、「ひょっとこの口の部分を接着する係」の一人が機嫌が悪く、すごい勢いで怒鳴られたことをきっかけに、ますます私は彼らとは疎遠になっていった。

そんなこんなで三ヶ月。

ある日、スーツ姿の男たちが数人、「視察」にやってきた。
いつもは午前11時半頃、のんびりと出社してくる「ひょっとこの口の部分を接着する係」の者たちも、この日は午前9時に出てきていた。

スーツ姿の男たちは、「ひょっとこの口の部分を接着する係」よりももっとプライドが高そうだった。

彼らこそ、「ひょっとこの口の部分を接着する係」よりも位の高い、「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」だったのである。

「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」になるのは非常にむずかしい。「ひょっとこの口の部分を接着する係」を10年以上勤めた後、何回も厳しい試験をパスしてやっとなれる職業なのだ。

この日ばかりは、「ひょっとこの口の部分を接着する係」の連中も頭が上がらないと見えて、神妙な顔で「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」の男たちのアドバイスを聞いている。

なんでも、「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」から嫌われてしまうと、生涯「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」になることはできないそうだ。
「ひょっとこの口の部分を接着する係」の一人、三十代半ばのS氏は、何かのきっかけで嫌われたため、もう「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」にはなれないのだそうだ。

彼だけが、プライドの高い「ひょっとこの口の部分を接着する係」の中でも妙に気さくで、休憩室でもバイトに話しかけたりしていたのはそれが理由らしい。

私も、彼から「子供がまだ小さい」とか「あと何年したら一軒屋を借りられる」とか、話を聞いたことがある。
彼がどうして「ひょっとこの口の部分そのものを製作する係」から嫌われたのかよくはわからないが、他のバイト連中の話によると、ひょっとこのお面の口の部分の角度に関して、かなり斬新な問題提議をしたかららしい。

このため、嫌われてしまい出世の道は閉ざされてしまったが、しっかりと「ひょっとこの口の角度」に関しては検討されたそうだから、この業界が抜け目がないということなのか、それとも技術に関しては健全というべきなのか。

そんなこんなで、さらに半年が経過した。

私は、けっきょくこのバイトをやめてしまったのだが、それは半年経って、ある光景を目にしてしまったからなのだ。

何かの拍子に、完成したひょっとこのお面を出荷するためのトラックに同乗したときのことである。
イレギュラーな手伝いでバイト代は良かったが、あれ以来、別にひょっとこのお面に興味のない私でさえ、やる気をなくしてしまったのだ。

出荷先にトラックを止めると、そこはだだっぴろいゴミ集積場のようなところで、昔の竹の子族みたいな派手なかっこうをして、顔に蛍光色のペンキみたいなものを塗りたくった若い男女が何百人も踊り狂っていた。

音楽のジャンルはよくわからないが、とにかくすごい音量だった。

彼らはトラックの荷台から次々にひょっとこのお面を手に取ると、地面に叩きつけて割り始めたのである。

「ひょっとこお面叩き割り祭り」……これが、現在のひょっとこ産業を支える最大のイベントだったのだ。

彼らはどんなふうにひょっとこの口が接着されているかなど観もしないし、ましてやひょっとこの口の角度など気にしてもいない。

ただ、ひたすらにひょっとこのお面を割り続けるのだった。

私は、工場でのいろんな人のことが頭に浮かんだが、何も言えなかったし、何を言う資格もないし、後で工場の資料室に帰ったら、このあたりのことは、

「ひょっとこお面叩き割り祭り問題を考える」

というテーマで、何冊も著作が出ていることを知った。
NHK特番の録画ビデオまで、資料室には置いてあった。

みんな、何もかも知っていて、自分の立場で仕事をしているのだった。

まあ、それでもどっちみち、私はこのバイトをやめた。

明日から、私は「おかめのお面製造工場」で働くことになる。
(了)

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【イベント】・「コミティア88」

ひさしぶりにコミティアに出ます。

5月5日(火・祝)
東京ビッグサイト
WAIWAIスタジオ せ02b

新刊はたぶんないです……。
でもできればつくりたいね。
匿名でむちゃくちゃ書いたりしたいですけどねえ。
その場だけ、20部くらい刷ってオワリみたいなやつ。

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【創作】・「以下に書くことは、全部創作です」

あれはバブルが絶頂期の頃。
私が大学のキャンパスにあるベンチに座って雑誌を読んでいたら、同じクラスの男三人が私に声をかけてきた。
三人とも、親しくはなかった。三人のうち二人はシーズンスポーツ系のサークルに入っていることは知っていた。残りの一人は、確か「広告研究会」だったか? そうだ、それだ。
真ん中のやつがリーダー格。ポロシャツのえりを立てて、浅黒い肌をしていた。むかって左が、そいつと同じサークルに入っているやつ。サークルのロゴが背中に入った、紺色のジャンパーを着ていた。
むかって右側が、広告研究会の男。茶色いフチの、大きめのメガネをかけていた。

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」2回連続更新で最終回

9回、10回と連続更新して最終回となりました。
8回まで読んでくださっている方は、お間違いのないように9回からお楽しみください。

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第10回(最終回)

第1回から読む

第9回

しかし、柿三郎の身体が一瞬半透明になったように見え、弾丸は彼の身体を素通りした。

「ギャーッ!!」

すごい声がした。柿三郎の真後ろにいた、ジンパチの子分の声だった。
弾丸は、彼に命中したのだ。

「!?」

驚くジンパチ。
しかし、そのほんのわずかの瞬間、柿三郎は10メートルの間合いを一気に1メートルにまで詰めていた。

「ローリング、シュナイダーッ!!!!!」

柿三郎のフィニッシュ・ブローが炸裂した。彼の左拳は、激しく回転する渦状の光を発し、ジンパチの持った拳銃に命中。

拳銃はチョコレートのようにひしゃげ、次に握ったジンパチの指を粉砕し、その手首をも粉砕し、右腕を折り、彼の右肩を破壊した。

「うぎゃーっ……」

「ローリング・シュナイダースペシャル!!!!!」

ジンパチが痛みで絶叫しようとしたとき、今度は赤色の光を放った柿三郎の右拳が、彼の左こめかみにヒットした。

その瞬間、ジンパチの頭蓋骨と脳髄は同時に破壊され、右の耳からブシューッと、脳漿が噴出していた。

ジンパチは、死んでいた。

「ズンドコ之助のローリング・シュナイダーなど、ただの技の残骸にすぎん。本当にこの技を復活させたのは、このぼくだ……」

右拳と左拳を血で真っ赤に染めながら、柿三郎はたたずんでいた。

しばらくすると、背後から異次元警察官が二人、やってきた。

「とうとうやっちまったな、柿三郎」

そのうちの一人が言った。

「何を言ってるんだ……。ポッピョピョン家とバーバーダム家を滅ぼすために、黙って見ていたんだろう? もしかしたら、ジンパチを呼び寄せて泳がせていたのもあんたらなんじゃないのか?」

柿三郎は言った。言っている間にも、彼の両手には手錠がかけられていた。
柿三郎は、抵抗しなかった。

「そんなにあそこに捨ててあったサンドイッチが欲しかったのか?」
「まあ、話はゆっくり署で聞くとするよ……」

二人の警官は、柿三郎を連行し、ジンパチとその子分の死体をかかえて去っていった。

「遅れちゃった……」

またしばらく経つと、「存在感薄い公園」に一人の人影が現れた。

ひょっとこ姫であった。

栗太郎の死後も、寂しくなって何となく公園に来ていたのだ。

「何かあったのかな……」

血で汚れた地面を不審そうに眺めるひょっとこ姫。
バイト先のコンビニから直行して来たので、小麦粉ババアが死んだことすら、彼女は知らない。

「きょうだいみんな死んじゃった……」

ひょっとこ姫は、ベンチに腰かけてじっとしていた。

数分経つと、いつの間にか歌を口ずさんでいた。

それは、「ピョメピョメ倶楽部」の歌であった。
(完)

もう一度、第1回から読む

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第9回

第1回から読む

第8回

「やられた……! それにしても、どいつもこいつも、敵の差し入れを食うとは……」

ジンパチは舌打ちしたが、すぐに思い直した。
「この町のボスになるのはおれだ。そのときには仲間が少ないほうが、分け前は増えるというもんだ」

この段階ではじめて、ジンパチは実家に足を踏み入れた。
「むっ」
小麦粉ババアも、死んでいた。手には食いかけの饅頭を持っていた。

「桃次郎のしわざか……」

いまいましく思いつつも、そろいもそろって敵の差し入れを食うという神経が、修羅場をくぐってきたジンパチには理解できない。

ジンパチは、小麦粉ババアの死体を見つめながら、一升瓶を取り出して酒を飲みだした。
しばらくすると、電話が鳴った。

「バーバーダム家だ」

出ると、凛々しい若者の声がした。
「ジンパチか。おれはポッピョピョン家の最後の生き残り、柿三郎だ。貴様、越えてはいけない一線を越えてしまったな。勝負がしたい。明日の午後2時、『存在感薄い公園』に来い」
「わかった」

探す手間が省ける。ジンパチは短く返事をして、電話を切った。

翌日、午後2時、「存在感薄い公園」。
ジンパチは早めに来て、場の状況を把握しようとしていた。
本来なら、栗太郎のときのように遠方から狙撃してしまうのがいちばんだろうが、柿三郎が場所を指定してきた以上、こちらの出方もお見通しだろう。

そこで、死角のないよう公衆トイレを背に、どこから柿三郎が着てもいいように待っていた。

もちろん、自慢の拳銃はきちんと手入れをしてあるし、ある「汚い手」も用意していた。

「逃げなかったんだな……」

午後2時ぴったりに、柿三郎はやってきた。
栗太郎は顔は栗、身体はマッチョだったが、柿三郎は顔が柿、そして身体は栗太郎など問題にならないくらい筋肉質であった。

位置はジンパチの真正面である。距離は10メートルほど。
この瞬間、狙撃してもじゅうぶんやつを殺せる……。

ジンパチは一瞬そう思い、そして次の瞬間、その考えを撤回していた。

いや、違う。こいつはできる。

ジンパチに、初めて焦りのような感情が芽生え始めていた。

「栗太郎兄さんが、跡取りとなったのはやはり失敗だったんだ……」

柿三郎は、勝手にしゃべり始めた。

「そもそも、ポッピョピョン家は格闘家の一族だった。
今では忘れ去られているが、異次元ではちょいと名前を知られたこともある。しかし、父のズンドコ之助はおそろしいまでに怠けるのが好きだった。
20年前、祖父のドンドコドコ佐衛門が死んでから、ズンドコ之助はこれ幸いと格闘家の看板をおろし、ニート生活に入った」

「子供たちにも、格闘技を教えることはしなかった。毎日まいにち、怠けてばかり。
怠け者の栗太郎にいさんを跡取りにすえたのも、息子の代で格闘家としての活動が復活することを防ぐためだった」

ジンパチは、柿三郎の話を聞きながら、隙をうかがっている。

「しかし、自分はイヤだった。毎日まいにち怠けて暮らすのが……。
そこで、重い石を持ち上げては谷底に放り投げる仕事をした。生活費を稼ぐのはもちろんだが、格闘家としての鍛錬の意味もあった」

「ズンドコ之助は、私が肉体労働をしているとしか思っていなかっただろうが、実は違う。
バイトの後には、格闘技の特訓に明け暮れた。祖父のドンドコドコ佐衛門、父のズンドコ之助の技を復活させるのは大変だった」

ジンパチは、「今だ!」と思い、前方に左手でわずかに合図を送った。

パーン!!

何か大きな音がした。ジンパチの子分が、合図を受けて出した音だった。

その瞬間、柿三郎はハッとして動きを止めた。

「何がどうだろうと、死ぬのはおまえだぜ!!」

ジンパチは抜き身の拳銃を構えて、撃った。距離は10メートル。避けようがない。

第10回(最終回)に続く

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第8回

第1回から読む

第7回

栗太郎の死をかわぎりに、小麦粉ジンパチによる「ポッピョピョン家狩り」が始まった。

次男・桃次郎は、コンビニで立ち読みした帰りに狙撃され、死亡。

四男・梨士郎は、ネットカフェから出てきたところを狙撃され、死亡。

五男・芋梧郎は、場外馬券場の人ごみで、後ろからナイフで刺されて死亡。

六男・檸檬六郎は、床屋でひげをそってもらっている最中、ガラス越しに拳銃で撃たれて殺害された。

すべてがジンパチのしわざであることはあきらかだった。

ズンドコ之助は、パニックにおちいった。
何しろ、バーバーダム家は、「給食の犬食い」という防御呪文しか知らない小麦粉ババアを除いて、すべてが拘置所に入っていると思っていたのだ。
そこにまさか、いなくなっていたジンパチが表れるとは思ってもいなかった。

しかも、前々から「最も危ないヤツ」だということは知れ渡った男である。

すでにポッピョピョン家は、栗太郎も含め四人がジンパチによって殺害されている。

そのうち、いわゆる「ファミレス戦争」の舞台であったファミレスの店長まで、ジンパチによって撃ち殺されてしまった。

ポッピョピョン家で残っているのは、バイトをやっている柿三郎と、自分しかいない。

ズンドコ之助は、「警察に通報」に引き続き、二度目の決意をしなければならなかった。

……「狙撃事件、殺害事件があいついでいる」という情報はあっという間に町内に広まった。
今は人っ子一人、路上を歩くものもいない。

木枯らしが吹いていた。

閉店してしまったファミレスの前に、男が立っていた。
ジンパチである。

しばらくすると、彼の前方10メートルほどのところに、男が現れた。

ズンドコ之助であった。

「やっと当主のおでましか。待ちくたびれたぜ」

ジンパチは、右手に握った拳銃に頬ずりした。

「これだけ死人が出てしまったとあっては、私が出てくるしかない、と思ってな……」
「おいぼれがどこまで通用するか、相手になってやるぜ」

二人の間の空間に、異様な緊張感が立ちこめていた。

しばらくの沈黙の後、ダッシュしたのはズンドコ之助だった。

「ローリング・シュナイダーッ!!」

ズンドコ之助の左拳はまばゆい光を放ち、ジンパチの顔面向けて解き放たれた。

ズキューン!!

しかし、ジンパチの拳銃さばきの方が何倍も早かった。

フィニッシュブロー「ローリング・シュナイダー」がジンパチに達する前に、ズンドコ之助の眉間は拳銃で撃ち抜かれていた。

ファサ……というような、まるで布きれがふんわりと地面に落ちるように、ズンドコ之助は倒れた。

「あっけない最後だったぜ」

ジンパチは肩頬を吊り上げて笑った。

プルルルル、プルルルル……。

ジンパチの携帯電話が鳴った。

出てみると、ジンパチの子分の男だった。

「アニキ、今大変なことになってますぜ。拘置所の小麦粉ジョー、小麦粉豊作、小麦粉キャッツ、小麦粉太郎の四人が、差し入れの饅頭を食べて全員死んだそうです! なんでも毒入りだったそうで……」

「何!? いったいだれがそんな差し入れを!?」

「なんでもポッピョピョン家の桃次郎とか言うヤツだそうで……」

いったいいつ饅頭が差し入れられたかを、子分に聞く。
それは桃次郎をジンパチが殺害する直前のことだった。
桃次郎は、コンビニで立ち読みする前に拘置所に寄っていたのだ。

第9回につづく

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第7回

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第6回

やけに寒い日だった。

今日も、栗太郎とひょっとこ姫は「存在感薄い公園」で会っていた。
すでにピョメピョメ倶楽部の話題も尽きていたが、やがてお互いの日常生活について語り合うようになっていた。

「……気づいていたよね?」

ひょっとこ姫が言った。下を向いている。ひょっとこのお面のせいで、表情はわからない。


「ああ。おやじたちがファミレスの座席を奪い合っていることだろ?」

栗太郎はため息をついた。
あんないがみ合いをしていたら、いつまで経っても自分とひょっとこ姫は、大手を振って会うことができない。

しかも、ひょっとこ姫のきょうだいたち……。小麦粉ジョー、小麦粉豊作、小麦粉キャッツ、小麦粉太郎、すべてが、ズンドコ之助の通報によって逮捕されてしまったのだ。

栗太郎には、済まないと思う気持ちがある。

「いいよ……。ドロボーはドロボーなんだから。捕まるのも、時間の問題だったよ」

ひょっとこ姫は、言った。
小麦粉ババアは放心状態になってしまい、今では家で異次元テレビをぼーっと眺めている状況だという。

「ウチのおやじだって、毎日ファミレスに入り浸って、柿太郎のバイト代でビールばかり飲んで……。ひどいもんさ」

栗太郎は言った。

しばらく沈黙が続いた。

「ねえ、なんで栗太郎さんは働かないの?」

ひょっとこ姫の何気ない言葉に、栗太郎は激しく動揺した。

(自分が怠け者なのが、バレた……!?)

必死にごまかしてきたが、とうとう言われてしまった。ああ、弟の柿太郎がバイトしてるなんて言わなければよかった……。弟と比べられてしまったのでは?

栗太郎の心の中に、さまざまな思いが去来する。

しかし、とっさに栗太郎はしゃべっていた。

「ぼくがニートなのには、わけがあるんだ。実は全異次元ニート選手権というのがあって……」

栗太郎の必死の自己弁護に、ひょっとこ姫の彼に対する好意はガラガラと崩れ去っていった。

当然、「全異次元ニート選手権」なんて、ない。

「私だって、コンビニでバイトしているのに……。この人は話を聞いていると、ピョメピョメ倶楽部のCDを図書館で借りて家で聞いて、後は毎日、つくりおきのおかゆをすすっているだけじゃない……」

ひょっとこ姫の疑念が最高潮に達したとき、一発の銃声が轟いた。

「栗太郎さん!!」

ひょっとこ姫が叫ぶ。栗太郎の胸板を、拳銃の弾丸が貫通したようだ。
栗太郎の胸から、ピューッと血が葺き出して来る。

「バーバーダム家を、なめるなよ」

声にひょっとこ姫が振り返ると、そこには拳銃を持った男が立っていた。

「ジンパチにいさん……!! いつこの町に戻ってきたの……!?」

「二、三日前さ。ひさしぶりに来たので少し様子をうかがっていたんだが、妹のひょっとこ姫よ、おまえもこんなチンケなやつに関わるんじゃねえよ」

彼の名は小麦粉ジンパチ。小麦粉ジョーの弟であり、小麦粉豊作の兄である。三年前にやくざの舎弟になって三人殺し、ずっと逃げ続けていたのだ。

それが今、帰ってきた。

「おれはこの町のボスになる。そうしたらひょっとこ姫も、ハンバーガーだけでなくチーズバーガーも食べられるようになるぜ」

ジンパチは姿を消した。ひょっとこ姫は追おうとしたが、栗太郎が撃たれたことに気づき、彼の方を振り返った。

栗太郎は、死んでいた。

第8回につづく

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第6回

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第5回

午後2時頃。
ズンドコ之助は、「存在感薄い公園」で仲良く語り合う栗太郎とひょっとこ姫を苦々しく横目で見ながら、隣のゴミ捨て場でサンドイッチをあさっていた。

ズンドコ之助は、当然、いまだに栗太郎がひょっとこ姫と仲良くしていることをよく思っていなかったが、バーバーダム家との「ファミレスの座席争奪戦」にかかりきりになっており、それどころではなかったのだ。

いつものゴミ捨て場にいるズンドコ之助の背中に、焦りの色がにじみ始めた。

「サンドイッチが、ない……」

ニートであるズンドコ之助の一族、ポッピョピョン家は、ほとんどここに捨ててあるサンドイッチのみで生活している。
ここのサンドイッチがないとなると、死活問題だ。

「もしかして……。やつが!?」

ズンドコ之助は、つぶやいた。

「おばば様。我々の手を持ってすれば、このようなことはたやすいですよ」

ここはバーバーダム家。
小麦粉ジョーが、ドサッと放り出したものは、大量のサンドイッチであった。

小麦粉ジョーは、バーバーダム家のドロボー行為の中心人物である。

「でかしたぞ、ジョー。これでやつらは兵糧攻めにあったも同然……。まもなくファミレスから手を引くじゃろう」

小麦粉ババアは、嬉しそうにサンドイッチのひとつを手に取り、包装をはがしてひと口食べた。

「やつらの金銭の収入は、柿三郎のバイト代のみですからな。金銭がなくなれば、ファミレスになど入れなくなるのは必定」

柿三郎は、栗太郎、桃次郎の弟で、重い石を運んでは谷底に投げおとすというバイトをやっている。

「これで再び、われらの天下じゃ!!」

小麦粉ババアは、嬉しそうに笑った。

実際、二、三日してズンドコ之助はファミレスから姿を消した。
昼頃には手つかずで残っていたサンドイッチが根こそぎなくなっていたため、ズンドコ之助は午前中にも行ってみたが、やはりなくなっている。
仕方がないので、面倒くさかったが早朝4時起きしてごみ捨て場を見張る。

すると、サンドイッチが捨てられてすぐさま、それを拾って持っていく人影があった。

「小麦粉ババアのところの、小麦粉ジョーじゃないか!!」

ズンドコ之助はやっぱり、と思った。
「我らのライフラインを絶って、ファミレスから撤退させたのだな……」

ズンドコ之助は悔しさのあまり、拳をワナワナとふるわせた。
彼の顔には、ある決意があった。
「最後の手段を使うしかない。」

ニートの彼にはないほどの、決意の表情であった。

数日後。
小麦粉ジョー、小麦粉太郎、そして小麦粉豊作、小麦粉キャッツといった、銅線ドロボーの兄弟の面々が全員、異次元警察に逮捕されてしまった。

ガランとした家の中で、小麦粉ババアは呆然としていた。
「やつじゃ……。やつが通報したんじゃ……」

しかし、考えてみれば隣近所に「あの人たちはドロボーで生計を立てている」と知られていた彼らである。
今まで、捕まらなかった方がおかしいのであった。

「わしはどうすればいいんじゃ……。もうファミレスに行けないではないか……」

具なしのお好み焼きを自分でつくって食べながら、小麦粉ババアはつぶやいた。
ひょっとこ姫のバイト代は、貯金をしろと言ってあった。今さら、家長としてひょっとこ姫に金を無心するわけにはいかない。

これが「第二次ファミレス戦争」の結末である。
最後の決戦が近づこうとしていた。

第7回につづく

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【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第5回

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第4回

今日もファミレスの奥の席を占拠しては、ドリンクバーだけ頼んでずっと携帯ゲームをやっている小麦粉ババアの孫、小麦粉太郎。

不自然なくらいに広げた足が、いかにも「陣取っている」という雰囲気を漂わせている。

そこにやってきたのが、ポッピョピョン家のズンドコ之助の息子、桃次郎であった。
大きめのめがねに、「ポッピョピョン家」の「ポ」と書かれたキャップをかぶっている。
ストーンウォッシュのジーンズに、上はそこらへんで買ったスタジャンであった。

年齢は、桃次郎の方が小麦粉太郎よりわずかに上だろう。

「キミさあ、これ見たことある?」

桃次郎は、一枚の紙きれを小麦粉太郎に渡した。

ゲームを邪魔された小麦粉太郎は、一瞬けげんそうな顔をしたが、渡された紙きれを見たとたん、興奮して立ち上がった。

「こりゃあ、アイブ裂きのヘアヌード写真じゃねえか!!」

アイブ裂きというのは、異次元界のトップアイドルである。

「なんでおまえがこんなもの、持ってるんだよ!!」

立ち上がった小麦粉太郎は、桃次郎に詰め寄った。

「裏山に、たくさん落ちてたよ」

桃次郎がそう言うと、小麦粉太郎は携帯ゲームを放り出して走り去っていってしまった。

「でかしたぞ、桃次郎! おまえはわが一族いちばんの切れ者じゃ!!」

ズンドコ之助は、小麦粉次郎が占領していたファミレスの席に座ってビールを飲んでいた。
つまみはポテトフライのみで、もう3時間もねばっている。

「して、どうやってやつを外に出させたんだ?」

ズンドコ之助が聞くと、桃次郎は説明をした。

桃次郎は、パソコンの写真修正ソフトを使って、アイブ裂きの顔と、他の女優のヌードの身体とをくっつけて加工したのである。

我々の世界で言うところの、アイコラである。

しかし、小麦粉太郎はパソコンはおろか、写真をそこまで加工できるということも知らない。
だから、「本当にアイブ裂きが脱いだ!!」と思い込み、興奮してしまったというわけだ。

「だけど、彼は幸せですよ。ぼくがつくったアイブ裂きのヌードを裏山で大量に見つけて、喜んでいるに違いありません」

桃次郎は得意げであった。

その後、ズンドコ之助はふたたびファミレスの席がバーバーダム家によって乗っ取られないように、一族の者を交代でファミレスに送り込むことにした。

暇人なら、ポッピョピョン家の方がバーバーダム家よりもずっと多い。

こうしてバーバーダム家は、ファミレスからしめ出されることになってしまった。

これが「第一次ファミレス戦争」の幕切れであった。
しかし、バーバーダム家も恐ろしい作戦を立てていたのであった。

第6回につづく

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