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監督:曽利文彦、脚本:篠崎絵里子
ドヤ街にやってきた野良犬のような少年、矢吹ジョー(山下智久)は、チンピラとのケンカでボクシングの才能の片鱗を見せる。
彼にボクサーの原石として惚れこんだ飲んだくれの中年・丹下段平(香川照之)は、彼のコーチを買って出るが、ジョーは度重なる悪事のため少年院に入れられてしまう。
そこでも暴れまわるジョーだったが、プロボクサーの力石徹(伊勢谷友介)と出会い、彼との少年院内におけるボクシングの試合でボクシングそのものへの愛着と、力石という男に対する「友情のようなもの」を感じ取る。
本来、キャリアも実力も段違いであるはずの力石もジョーとの対戦にこだわりを見せ、世界チャンピオンも狙える位置にある力石にとっては価値のない(ただし彼にとっては重要な)矢吹ジョーとの試合が実現することになる……。
いやすごくがんばってると思う。この映画。
昭和40年代の風俗考証がどの程度正確か、ボクシングの描写のリアリティがどのレベルのものかなどは自分にはわからないんだが、「そうだよ、あしたのジョーってこういうところが面白いんだよなあ」ということを再認識させてくれる映画である。
観た人はみんな言うだろうが、香川照之の丹下段平再現度がハンパない。声まで似てるんだもの。
この映画を「あしたのジョー」たらしめている大きな要素が、丹下段平であることは間違いない。
主演二人も、「マンガのキャラを演じました」というレベルにとどまっておらず、きちんと実写のキャラとして立っている。
同じ監督の「ICHI」ではマイナス要因にしかならなかった「スローモーションの戦闘シーン」や「戦いが細かいカットの切りかえによってごまかしているようにしか見えない」といった要素は、原作がマンガであるからか「ボクシング」という格闘技が題材としてよかったのか、なかなか迫力あるシーンに仕上がっている(「クロスカウンターのやり合い」というシンプルな展開が、いい方にはたらいているということも言える)。
もちろん、山下・伊勢谷両者の肉体もボクシングシーンの迫力に説得力を与えている。
物語はジョーと力石の、戦うことでしか語り合えない不器用な友情に主にスポットが当てられている。白木葉子(香里奈)の、「どうしてもジョーと力石の間に入り込めないもどかしさ」がよく描かれていた。
そこに、原作にはない、白木葉子自身の人間的成長をからめる(恋愛要素は極力排除する)という脚本も、非常にうまいと感じた。
ラストも重すぎず軽すぎず、ちょうどいい感じだったと思う。
この映画、決してあなどるべきではない。