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「WORST(ワースト)」全33巻 高橋ヒロシ(2001~2013年、秋田『書店)

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月刊少年チャンピオン連載。
前作(「クローズ」)終了より、物語内では約1年後。「カラスの学校」と呼ばれる不良高校「鈴蘭」を中心に、「戸亜留市」の不良高校、および暴走族「武装戦線」の、他グループとの抗争について描く長編ヤンキーマンガ。
主人公は携帯もつながらない山奥から入学してきた月島花。彼は先代がだれも統一できなかった鈴蘭高校の「番長」を目指し、「花組」を結成する。

さて、私はこの作品、あまり高い評価ではないので、好きな人はこの先は読まないでください。

その1
「クローズ」の主人公、坊屋春道は、不良としてのステイタスになどまったく興味のない人間だった。「クローズ」という作品の魅力が、この「坊屋春道」にあったことは間違いない。

本作「WORST」の主人公・月島花も、春道同様、さわやかな男だが、「鈴蘭」での先輩たちがだれも成し遂げられなかった「鈴蘭統一」を宣言する。
物語の初期に、この花とは対照的な存在として、「天地寿」という男が現れる。仲間を決して信じることなく、ただ自分の権力拡大のことしか考えていない。自分に従う者を増やすことが、彼のアイデンティティだった。

で、問題はここからだ。
この二人の対立が、意外に盛り上がらないのである。まず「番長宣言」をした月島花に、ギラついたところがいっさいないため、彼自身が物語を動かす原動力になることが少ない。
しかし、「過去の経験から人を信じられなくなった天地寿の心を開く」という展開なら(実際そうなるのだが)、同じ作者の作品「キューピー」と同じになってしまう。
このため、月島花と天地寿のタイマンは、どこかクライマックス感がなく、淡々と終わってしまう。

そしてそれ以降、月島花はあまり登場しなくなり、まるで「いよいよという事態になるまで登場しない」、ワンピースのルフィのような存在になってしまう。
いや、そこにまでも至っていない。
なぜなら、物語も終盤、町田の巨大不良連合「萬待帝国」との七対七のタイマン勝負の際、月島花はトップバッターだからである。
この抗争、もともとは「武装戦線」と萬待帝国とのトラブルから始まっているため、鈴蘭高校の月島花は直接関係ないとは言え、この扱いはよくわからない。

要するに、作者がもともと「鈴蘭統一」という旧来の不良マンガにありがちな展開に興味がなかったのか、それとも「欲のない男が不良たちを統一する」ということにどうしてもピンと来なかったのか、月島花を動かしあぐねていたとしか思えないのである。
月島花のような欲のない男がリーダーシップを取る、というテーマを放棄(あるいは中心には据えない)し、ギラついた男たちの抗争に終始するならば、それはもう「普通の不良マンガ」にすぎない。

その2
もうひとつ大きな疑問なのが、花木九里虎の存在である。「クローズ」の「リンダマン」も、「別格に強い」という設定だったが、それなりのリアリティはあった。「体が大きくケンカが強いから、つけ狙われる」というキャラクターを確立していた。

花木九里虎は、月島花の一学年先輩であり、ケンカはむちゃくちゃに強いが不良たちの序列には興味がない、という設定なのは、リンダマンと同様である。
しかし、「ただ好き勝手にふるまっている」というだけで、坊屋春道のように作品のテーマを体現しているわけでもないし、物語の終盤になると、「どんなケンカ好きの不良も恐れる」という、リンダマン以上の怪獣のような存在になってしまう。

おそらく、作者としては、彼を「花の応援団」の青田赤道のような、組織内の序列からはずれた「別格の存在」として描きたかったのだろう。
しかし、彼のケンカの強さをあまりにファンタジックに描きすぎたため、他の者たちのタイマンもリアリティが損なわれることになってしまった。要は「九里虎が出ていけば、おさまる話じゃね?」という局面がいくつもできてしまうということだ。

あげくの果てに、「クローズ」の私の感想として「あからさまなカツアゲのシーンなどはないのが良い」と思っていたのに、九里虎の「別格性」を表現するために、ミクラス、ウィンダム、アギラという三人(当然、あだ名)の「パシリ」も登場することになってしまった。
とってつけたように、「九里虎のパシリをやっていると中学生から尊敬される」、「九里虎の存在を恐れて借金取りが近づかなくなった」などと描かれていたが、それと「鈴蘭にパシリが存在する」ということは、まったく別の話だろう。

なお、「作品内のケンカのリアリティの瓦解」ということで言えば、「プリン」の存在もある。ムチャクチャにケンカの強い「鉄腕ツトム」の親友らしいこの男は、こずるそうだがどう見てもケンカは強くない。
しかし、ケンカが強くなくて鈴蘭でやっていけるのか? その説明がまったくないのである。こういう設定上の妙なアンバランスさは、「クローズ」には見られないものであった。

その3
そんなわけで、本作が「月島花を中心とした物語」とするなら、あまり成功したとは言えないと思う。
「不良たちの群像劇」として見るなら、それなりだったとは思うが、最初から最後まで(私が)首をかしげながら読んでいた、というのが正直なところである。

さて、花木九里虎の話に戻る。月島花が、とりたてて恨みのない九里虎に、「番長としての自分」を鈴蘭の生徒たちに認めさせるため、物語終盤でタイマン勝負を挑む。
しかし、九里虎が後ろから襲いかかって始まる、というのは「そりゃないよ」と思うしかなかった。「魔王」と呼ばれる男がすることとしては、あまりにセコイ。
偉そうなことを書いて申し訳ないが、格闘技ものと違ってヤンキーマンガのケンカというのはバリエーションが付けづらい。それを承知のうえで、「WORST」は全体的に、ケンカのシーンをごまかしているようなところが随所に見られた。
さすがに、決めるところは決めるべきだっただろう。

「月島花のようなさわやかな男が、不良間の面倒な政治的闘争に身を投じたらどうなるか?」は、興味深いテーマだっただけに、個人的には「惜しい」と思ってしまった作品である。
私はその決定的な理由として、「軍師の不在」をあげたいが、まあこんなこと書いたってどうにもなるもんでもないしねえ。

・「クローズ」全26巻(1990~1998、秋田書店)感想

・「キューピー」全8巻 高橋ヒロシ(1997~2001、少年画報社)感想

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