【評論】・「呉智英は劣化したのか?」
呉智英へのインタビュー。この記事自体は興味深い。
この記事に関し、前にも書いたと思うのだが、うまく書けなかったのでもう一度書く。
なお、いちおうお断りしておくが私は呉智英のファンである。
呉智英は言う、
「私が保守派と呼ばれるのを好まないのは、この人たちがオカルトや偽史に親和的だからだ。」
いやいや。
いやいやいやいや。
「オカルトに親和的だから保守派と呼ばれるのを好まない?」
それよりもっと重要なことがあるでしょうが!
呉智英は、著作の中で全共闘運動に参加したことを明言している。それも、気分でちょっと参加したとかではない。ただの一兵卒ではないことも、過去の著作で明言していた。
警察に捕まって、裁判も受けているはずである。
また、彼が「思想的転向」を敵視していたことも、彼のファンなら知っているだろう。
「NHKの受信料を払っていなかったが、いい番組をつくることがわかったので払うことにする」と言った評論家を、実名をあげて批判するほど「転向」については厳しかったはずだ。
(たとえ受信料の件がジョークであったとしても、彼の「転向」への厳しさは変わらない。私は吉本隆明が、左翼の「転向」について論じていることを、呉智英の著作で知ったほどだから)。
呉智英は、最近はどうか知らないがもう評論家としてすでに名が通っていた時代に、全共闘運動を擁護し続けてきた。そもそも「歴史における革命の不可避性」のようなものを、擁護してきた。
彼のオススメのマンガを読めば、それは手にとるようにわかる。
別の言い方をすれば、呉智英の評論家としての特異性は、全共闘運動、およびそれ以前の革命運動を擁護しつつ、将来的な展望についてはきわめて保守的、というところにあった。
つまり、呉智英は転向していない。彼の文章はできるだけ読んだが、彼自身が「私は転向した」と言ったのを、聞いたことがない。
これはあまりにも矛盾している。ひどすぎる、と言わねばならない。
ちなみに、保守派の論客である西部邁は、至るところで転向宣言をしている。彼自身は過去の学生運動についても、その影響を受けた評論家たちの革命論についても否定的、もしくは懐疑的な見解を取っている。
それで呉智英も劣化してきたかと、ネットウロウロしてみるとショッキングなブログを見つけた。
どこのだれかは知らないが、筋の通った呉智英批判を行っている。
「呉智英の劣化」(1)~最終回(バカを斬る刀)
呉智英が「マンガ嫌韓流」を評価しているというのに驚いてしまった。しかも「大筋では間違っていない」という評価である。これはもうマンガ評論家をやめた方がいいレベルの発言である。
(「マンガ嫌韓流」は内容はメチャクチャだが、出版されたり売れたりすることには「時流」のようなものがある、という評価はありうるが、そういうのでもないからね。)
こうなってくると、次の興味は「なぜ呉智英は、保守と呼ばれても平気なのなら、若い頃に転向宣言をしなかったのか」ということになる。
私には二つの仮説がある。
ひとつは、自分が評論家としてやっていくにあたって、あえて転向宣言をしないこと(全共闘運動を肯定すること)が、有利に働くと思っていたから。
もうひとつは、「全共闘運動を肯定しつつ、保守的な持論を展開する」という、アクロバティックな評論活動を目指そうとしたが、結果的に失敗した。
……というものである。
個人的には後者だった方が面白いが、もはやあまり期待はしていない。
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