【書籍】・「グラビアアイドル『幻想』論 その栄光と衰退の歴史」 織田祐二(2011、双葉新書)
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ヒトから聞いた話だが、あまりの出版不況に驚いてしまった。
不況というよりも、電子書籍やスマホの出現によって、以前から「ネットに食われるのでは」とささやかれてきたこと、つまり「本が売れない」という現象が現実のものになってきたということだろう(むちゃくちゃ本を買っている私は、出版界の実情には疎いのです)。
このため、出版物発信のムーヴメントというのも起こりづらくなってきた気がする。グラビアアイドルもまた、「本が売れない」ということの影響を受けた一ジャンルと言わざるを得ない。
つまり、本書のサブタイトルどおり「栄光」の後の「衰退」の時期か。
本書は、「グラビアアイドル」の歴史を六十年代後半くらいから、本書が刊行された2011年までの歴史を追ったものである。
とにかく、実によくまとまっている。グラビアアイドルについてその歴史を知りたければ、本書一冊を読めばほぼ概要が把握できると言っていいだろう。
現在、漠然と把握されている「グラビアアイドル」の概念がいつできたか、そして「グラビアアイドル」という単語がいつ頃使われ始めたか(両者は別々の問題である)、水着になるアイドル、水着になる女優、キャンペーンガール、そして専業グラビアアイドルがどのように誕生し、どのように交錯したかについても書いてある。
著者は実際にグラビアアイドルを取材し続けてきたライターだが、経験だけには頼らず、文献(過去の雑誌など)にもあたっていて、グラビアアイドルを形成してきたさまざまな要素についても、正確に記述している。
非常によくできているのだ。
本書では、2011年当時、すでにグラビアアイドルは衰退しているという認識がしるされている。この辺は「歴史観」によるものなので異論がある人もいるかもしれないが、まあ私もだいたい似たような認識である。
本書では「グラビアアイドルは、アイドルである」という座標軸がキッチリしている。そのため、下ネタや元カレの話などをグラビアアイドルが「ぶっちゃけすぎた」ことを、グラドル衰退の原因としている。
それが「衰退」といえるほどグラドル業界を追い込んだかどうかは、私個人は断言しがたいが、一要素になったことは間違いないだろう。
では「ぶっちゃけさせた」のはだれかと言えば、テレビ番組や雑誌の人たちであり、その裏には「普通のアイドルではダメでも、グラビアアイドルなら人前で水着になるくらいだから、ぶっちゃけ発言をしてくれるかもしれない」という期待があったのだろう。
しかし違うんだよな。
「ただエロければいい」ことだけが、男性が女性タレントに求めていることなら、AV嬢以外の、疑似恋愛の対象となる女性タレントはとっくに絶滅しているはずなのである。
では今後、グラビアアイドルの存在価値はあるのか?
それはみなさんで考えてみてください。
(という、いいかげんでテンプレな結び。)
(と、書いておけば許されるという、おれの甘え。)
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