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・「私立極道高校 復活版」(上)(下) 宮下あきら(2012、集英社) 

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もうすぐ最終回を迎える「こち亀」が週刊少年ジャンプでスタートしたのが1976年。
本作はその3年後の1979年にスタート、翌年の11号で「アシスタントが無断で実在の高校の校章を書いた」という件で連載打ち切り、単行本も絶版回収となった。

この単行本は、最近出た「復刻版」で打ち切り直前まで掲載されているが、作者あとがきで「極道高校の人気で観たこともない大金を手に入れ、酒と女におぼれた」とある。新人が、単行本も1巻しか出ていない状態で、いくら右肩あがりとしてもそれだけの大金を入手できるか疑問だが、作者のリップサービスかもしれない。

さて、この「みんなが読んだつもりであまり読んだことのない」本作のあらすじは簡単に言えばこうだ。

極道社会の伝統を守るため、全国各地の極道の親分が力を合わせ創設した国内唯一の極道(要するにヤクザ)養成機関「私立極道(きわめみち)高校」。
そこに所属する生徒たちは、「ヤクザを育成する」というムチャクチャな学校内プログラムや、全国から集まってくる猛者とのケンカに明け暮れる。
その中には、一匹狼のスタンスを崩さない男・学帽政(がくぼうまさ)の姿があった。


・その1
1976年に始まった「こち亀」の両さんは、連載当初はもう少し今よりこわもてだった記憶がある。相棒もやくざみたいな後輩がいて、そいつだった(せんだみつお主演の映画版も、両さんのバディは中川ではなく、この「やくざみたいな警官」である)。
「ハレンチ学園」、「ドーベルマン刑事」などの少年ジャンプのバイオレンス路線は80年代になってからも続くが、もう少し洗練されていく気がする。世間的にも、70年代にはバイオレンスなエンタメが多かったという背景もあるが、ジャンプ内において(こち亀はともかく)「極道高校」がモロに影響を受けているのは当然、本宮ひろ志作品だろう。

で、「極道高校」は、絵は完全に劇画だが、中身はギャグである。ときどき泣かせる話もあるが基調はギャグ。だが、もしかしたら時代に合わせてよりシリアスな路線に行っていたかもしれない……というところで作品は終わっている。
そして本作にもうひとつ影響を与えているのは、おそらく「どおくまん」の「花の応援団」だろう。
学園内という特殊な閉鎖社会、上のものには絶対服従、などは、どおくまん作品から取ったものだと思う。
(実際、どおくまん作品によく出てくる「アワを吹いて倒れる描写」が出てくる)。

だが、本宮ひろ志の方にずっと恩義がある作者は、おそらくどおくまんについてはあまり言及しないであろう。

・その2
「どおくまん」には体育会系の上下関係に対する理解がまだしもあるが、実は本作にはそんなものはまったく出てこない。先輩には平気で立てつくし、教師へのリスペクトもない。これは後の「激!! 極虎一家」も「男塾」も、みんな同じである(江田島平八はのぞく)。
そもそも、秩序優先の封建主義とも呼べる体育会系の世界観と、「ストリートなガキ大将」本宮ひろ志やそのフォロワーの世界観が、なじむはずがない。
そんなわけで実は「極道高校」は、「極道を育成するという意味では秩序ある学校」のようでいて、実はまったくそうではない。それより無法地帯と言った方が近いだろう。
ギャグマンガ的観点から言えば、同時代のアナーキーさの影響を受けているのだろう。

本作の微妙なところは、学帽政の相棒となる加藤梅造が、片手片足義足なのだが通常人とまったく同じ動きをしており、「人間サイボーグ」という矛盾だらけのあだ名を持っているなど、ギャグマンガの方法がリアルな劇画の中で使われている点にある。

生身の手や足が何かの拍子に取れてしまう描写は赤塚不二夫の作品にもよくあったが、それを劇画でやったら、ギャグにもならないし笑いにもならない。読者は「?」と思うだけである。
そんなわけで使いづらいのか、加藤梅造は仕切りなおして連載された「極虎一家」にも出てくるが、すぐに死んでしまい、そっくりな弟が登場してくる。

・その3
要するに「実に過渡期的な作品」という凡庸な感想しか思いつかないのだが(むちゃくちゃなマンガとしてはとても面白い)、もしも本作が継続していたとしたら、他校との抗争になっていたのは間違いないだろう。

なお、本作のマイナス面(と私は思う)が、「極虎一家」では治っているのも興味深い。

その点においては、「極虎一家」について語るときに言及する。

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