・「きりとばらとほしと」 石ノ森章太郎
なんでも香取慎吾主演で、「ポーの一族」っぽいドラマがつくられるということで、ツイッターではちょっと騒がれていた。
むろん、「そんなことやって大丈夫か」という方向で。
それでふと思ったのだが、オタクに好まれる作品というのは「体験」として語られる場合と「歴史」として語られる場合がある。
もちろんその両方もあるのだが、たいてい、アイドルとかが「私はオタクなんです」と言うときは、前者の「体験」として作品を語っている場合が多い。
ドラマ化などで炎上してしまうのも、このケースが多いように思う。体験をけがされたように思うから、炎上するのだ。
1972年に描かれた「ポーの一族」は、とくに「体験」として刻み込まれてしまう作品である。
ウィキペディアを観てみたが、今回、ちょっと騒ぎとなっている香取くんのドラマ以外は、別のメディア化としてはラジオドラマがあったくらいのようだ。
どういう事情か知らないが、熱狂的なファンではない私でも、アニメ化などはしないで正解だったと思う。
ではマンガ史的にどのように位置づけられるのか。
……と考えたときに、はずせないのが石森(石ノ森)章太郎の「きりとばらとほしと」である。
萩尾望都は、小学生か中学生のときに読んだ「きりとばらとほしと」が、「ポーの一族」にヒントを与えたと明言しているらしい。
だから、「ポーの一族」をこの世に誕生せしめた作品としてけっこうな重要作だと思うが、どうせほとんどの人が読んでいないだろう。
本当に悲しいことである。
「きりとばらとほしと」は、「きり」、「ばら」、「ほし」という三つの時代を通して生き続ける吸血鬼の少女・リリの人生を描いた、60ページほどの中編である。
第一部「きり」は「吸血鬼カーミラ」がもとで、第三部「ほし」はリチャード・マシスンの「吸血鬼」(1954年、邦訳は58年)がもとである。
現代を舞台にした第二部「ばら」では、重要な「吸血鬼がばらの花を持つと散ってしまう」という設定が出てくるが、私の勉強不足でその元ネタはわからなかった。
特定の人物が時代を超えて生き続ける、という着想も、ネットをちょっと調べたかぎりでは元ネタがわからない。
ただし、ひとつの世界の各時代を描き続ける、というのは、SF小説「火星年代記」(1950)がやっている。
手塚治虫の「火の鳥」もすでに1961年の段階で存在するが、本作に流れる独特のリリシズムは石森章太郎固有のものと言えるだろう。
本作が、今、あまり語られない理由は、元ネタが明確だからだと予想できる。あるいは本作のタイトルで単行本が出ていないのも大きな理由だろう。
そもそも、石森(石ノ森)章太郎特有のリリシズムそのものが忘れ去られつつある。
まったく、「地球最後の男」となったヘンリー(「ほし」の章に出てくる男性)になったような気分である。
かくして、またひとつ名作が歴史に埋もれていく。
サン・コミックス「龍神沼」、「石森章太郎 ファンタジー・ストーリー」(主婦の友社)などに収録されている。
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