【雑記】・「入門編が必要かどうかは、ジャンルによる」
たまたま、まったく別の場所で「趣味に入門編は必要ない」という話を聞いたので、
私は異論を唱えておく。
そういえば非常に印象的だったのが、今から30年以上前、春風亭小朝が、
「歌舞伎を好きになるには、一度、恥をかかなくちゃいけません」
と言っていたことだった。おそらく、何もわからずに見に行っていろいろなことに疑問を感じ、己の無知を感じ、連れて行ってくれた歌舞伎マニアの前で無知をさらけだし、恥をかくところからが始まりだと言いたかったのだろう。
まあ、確かにそういうことはある。そして、最初の体験が、その人がそのジャンルにのめりこむかどうかの分岐点になったりする。
あるジャンルに、初見で思いがけず面白さを感じられた人はのめりこむし、逆に駄作にブチ当たった場合は初心者の段階から離れてしまう。
それでも歌舞伎の場合伝統文化であり、なおかつ「歌舞伎の教養があって当たり前」というコミュニティも存在するだろうから、そこで生きていくためにはくらいついていく必要がある。小朝のコメントには、そんなニュアンスがある。
私は、「入門編は必要である」という立場である。
「マンガ」は、実は読解の文法がある。これを無意識に学習できるのは、幼年マンガ、少年マンガなのだ。
これらは、一種の「入門編」である。
SF、ミステリ小説においても、「入門編」は存在するだろう。いきなり「スキズマトリックス」とか読んでも、面白いわけないのである(初心者で楽しめたなら、それはおめでとう。私はいまだにわかりまへん)。
ミステリは、まだいきなり難解なものに挑戦しても大丈夫な気がするが、たとえば面白いよ、面白いけど、人生初めて読んだミステリが「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」だったら、やはり離れてしまう人は離れてしまうのではないか。
そうだ、江戸川乱歩の「少年探偵」のシリーズが、「入門編」として機能しているのかもしれない。
あるいは、青い鳥文庫などに入っているミステリ仕立ての小説が。
いや、マンガの「名探偵コナン」や、ドラマの「相棒」かもしれない。
そしてこの「入門編問題」とは、この「離れてしまうのではないか」という、すでに入門編くらいはクリアしている人の問題でもあるところが面白いところだ。
要は、「あんなものを最初に読んだら、そのジャンルが嫌いになってしまうのではないか」と感じるのは、マニア当人であって、そこに初心者の「本当の声」はないことが多い、ということだ。
では、はぜそういうことが起こるか。
それは、「読書」が教養の「体系」だからである。
もちろん、今、学校で習う文学史以外で、強固な「文学大系」を感じることはあまりない。
だが、読書する人の心の中には一人ひとりの「読書大系」があるのである。
「大系」になっている以上、難解なものが山の頂上に近く、簡単なものは裾野にある(と、想像される)。
教養が「大系」である以上、「入門編」は存在する。
ただし、個々人の中において。
それが私の結論である。
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