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【書籍】・「新左翼とロスジェネ」 鈴木英生(2009、集英社新書)

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2008年の「蟹工船ブーム」から話を始め、現代の若者の意識と、過去の新左翼の歴史を結び付けようとした本。
それが成功しているかどうかはともかく、簡潔な「新左翼史」として、よくまとまっていると感じた。

以下は、本書とは直接関係ない話である。

・その1
オタク評論史的に言えば、大塚英志は「批判的に」全共闘世代と現在をつなげようとした。岡田斗司夫は、あざやかにバッサリと切り捨てた(「愛国戦隊大日本」が批判され、それにどう対応したかなどは、ググればわかる)。
アニメクリエーターでも宮崎駿や高畑勲、押井守などは明確に左翼だと思うが、受け手はあまりそのことは気にしていないようである。

何が言いたいかというと、実に見事に知識が世代間で断絶してしまっているのだ。むちゃくちゃ大雑把に言えば、オタク第一世代は、自分たちより上の全共闘世代から、思想的脱却をはかろうとしたとも言える。
一方で、オタクなどと無関係のシーンでも、80年代には「脱マルクス」的な言説が流行した。今でこそ「現代思想」は、入門書レベルではマルクスやエンゲルスとまったく関係ないような顔をしているが、80年代には「いかにマルクス主義を相対化し、そこから脱するか」に血道をあげていたのである。

もちろん、サヨクに関する本など書店に行けば山ほど売っているが、これを理解するのはけっこう骨だ。右翼は直観でなんとかいけるが、左翼はそうはいかない。

知っているつもりでも、いくつか誤解があり、そのまままかりとおっていることが非常に多い。
たとえば、以下のようなことである。

・その2
・共産党と全共闘は考え方が違う
まず、左翼というと全員、共産党所属というか共産党の政策に賛成しているという誤解がある。
もともと、60年代の学生運動は、共産党への反発から生じたらしい(だから旧左翼と区別するために「新左翼」と言うらしい)。ここを知らない人は、意外と多い。

・全学連と全共闘も違う
名前が違うのだから当然、あり方も違うのだが、こういう細かいことを指摘していたらキリがないのでここは省略する。

・学生運動は、必ずしも政権打倒を目的とするものとは限らない
連合赤軍のイメージが強すぎるためか、学生運動が足並みそろえて、当時の日本政府の政権を打倒し、とってかわろうとした、と思い込んでいる人も多い。
そう考えている学生もいたかもしれないが、そう考えていない学生も多かった。
そして、それが昔の学生運動を理解しにくくしている一因でもある。「政権打倒」が統一スローガンなら、まだ理解しやすいのだが。

・「自己否定」という概念が重要だった
実は私もよくわかっていないのだが、資本家、権力者に反抗すべき労働者と、学生はぜったいに同一化できない。学生は労働者ではないのだから当然である。そこで、エリート候補生であった自分をいったん否定する、そして反抗する、という思想だったらしい。
この「自己否定」の概念がわからないと、後の連合赤軍事件もわかりづらいだろうし、学生運動の波が過ぎ去った後、なぜ四畳半フォーク的な世界があんなにもメソメソしているのかも、わからないだろうと思う。
実は、私もよくわからない。

・その3
学生運動の記憶というと、「連合赤軍事件」と、その後の過激派の内ゲバが「物語」として80年代には語られた。
それは、多くの場合、「アタマでっかちで性急な考えを持った若者が、無謀な犯罪を犯して自滅する」という図式だった。
確かにそういう一面もあったが、80年代文化の「明るさ」は、むしろ60~70年代の「自己否定という呪縛からの解放」と考えた方が、ずっとわかりやすい(ちなみに「自虐史観」の「自虐」も、この「自己否定」とたぶん地続きだろう)。
むろん、当時のクリエーターだって60年代、70年代の学生運動のことを知らない可能性も高いが、時代の空気というものがある。80年代が「自己肯定」の時代だったことは間違いない。そしてそれは80年代末には、「自我の肥大化」と批判されるまでに至るのである。

80年代末には、学生運動を体験している世代の識者、評論家も「自己否定」というインテリ向けのスローガンを一般庶民に使うことはできなかった。代わりに、「共同体内での関係を通した自我の確立」を推奨した。
だから「自己否定」というのは、大学生が今よりずっとエリートだった頃の特異な考えとして、ますます難解になっていった、と今のところ、考えている。

……とまあそんなことを書いていたら、京大の構内に警察官、学生とトラブル 大学「誠に遺憾」というような事件が起こった。いつの時代の話かと思ったら、現在だった。
ちなみに「東大ポポロ事件」なんてものも、私は知らなかった。

ことほどさように、「そのあたりの記憶」は、後続世代に受け継がれていないのであった。

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