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【書籍】・「ぼくたちの80年代 美少女マンガ創世記」 おおこしたかのぶ(2014、徳間書店)

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主に80年代に活躍、次代を担ったマンガ家に、当時や現在についてインタビューした本。
登場するのは、「少年誌のエロ路線」を描いていたえびはら武司、遠山光など、当時勃興した「ロリコン・美少女マンガ誌」に描いた、河本ひろし、山本直樹など、そのちょっと前の世代であるダーティー松本、サブカル・アングラ系では山野一など、非常に多岐に渡っている。
もともとエロ雑誌の中の活字ページの連載だったらしく、エロ目当てで雑誌を買った者にとっては、息ぬき的な、どちらかというと軽い内容になっている。それでも、「広義のエロマンガ」が破竹の勢いだった80年代、そしてひとつのターニングポイントになった「連続幼女誘拐殺人事件」を経てどう変わったかが各作家に質問されており、時代の空気が真空パックされた内容になっている。

私は、私の青春時代だったというだけで80年代を愛でているが、同時に「オタク黎明期」としての80年代の流れをおさえておくことは、オタク史のうえでも重要なのだとうったえ続けてきた。
まあ「重要かどうか」ということを言い出したら90年代も00年代も同じように重要なのだが、やはり「草創期」としての80年代はとても大切なのである。
というわけで、本書は80年代という時代を体感したい人には、必読の書といえる。

で、ここから先は、本書とは直接関係ない話である。

・その1
本書は、登場する作家が多岐にわたりすぎているので、80年代という時代を把握するにはある程度の交通整理が必要だと思う(繰り返すが、もともとそんなに重い内容ではないので、そのことが本書を読む上で絶対に必要なわけではない)。
大きく分けると、こんな感じか。

・エロ劇画時代からの作家

・80年代からのロリコン・美少女ブーム以降の作家

・少年エロコメ作家

・メジャー誌でエロを描いていた人

中には美少女マンガ誌からメジャー誌にうつったり、今回、登場しないがその逆のパターンもあるが、まあ大雑把にいってこんな感じである。

対照的なのは、「生活できてこそプロ」と断じる作家と、同人誌からスカウトされて作家になった人たちだろう。
ここには「プロ」に対する考えの変化が如実に現れている(が、本書で顕在化はしていない)。
他にも、あくまでも「紙媒体に描きたい」という人と、ネットの方に活路を見出そうとしている人がいたり。

「オタクかどうか」もかなり作家姿勢を変えると思うのだが、本書ではその差をもうけようとはしていない。
ただ、面白かったのは遠山光がアニメ会社を一週間でやめてしまった、という話で、明示はされていないが、オタク的なノリについていけなかったらしい。こういう「小さな摩擦」は、リアルタイムではよく語られたのだが現在ではほとんど言及されることはないので、個人的には貴重な証言だと思った。

・その2
実際、どの程度当時雑誌が売れていたのかは知らないが、マンガにおける「エロ」が、80年代に拡大路線で軌道に乗っていったことはまず間違いがない。本来、「エロは不況に強い」とも言われていた。
また、圧倒的な人手不足のジャンルでもあった。だから、本書に登場するほとんどの作家はデビューが早いし、人気があるから仕事も多かった(人気がなければ、21世紀の本にインタビューされたりはしない)。
ミヤザキ事件に関しても、当時は大打撃だっただろうがやはり印象としては、ネット登場以降の、右肩下がりの出版不況の方が、作家に大きく、かつ持続的な打撃を与えているように思えてならない。

つまり、どうしても80年代にデビューしたマンガ家は、追い風のあるときにデビューして人気を獲得し、その後はジリ貧になっていってしまうパターンが多く、その中での生き残りが作家としての重要課題になってくる。
だから、個々のインタビューの流れが、防ごうとしてもどうしても、ちょっとせつない方向に行ってしまうのは仕方のないところだろう。
本書のテーマが「80年代」だから仕方がないが、出版不況後にデビューしたエロマンガ家のインタビューなども混ぜれば、まだ少し希望が出たかもしれない。

・その3
私がいちばん知りたかったのは、70年代の「三流エロ劇画ブーム」が終わり、アニメ的な美少女マンガの時代がやってくる、その変化していく状況についてだったのだが、その辺のことにはあまり言及がなかったのが残念だった。
80年代にロリコンブームが来て、エロに要求される絵柄が劇的に変わったことは間違いない。だがそれが本当に「劇的」だったのか、意外とゆっくりしていたのかはよくわからなかった。

ところで。
現在と比べれば、「作品を商業誌に載せる」ことのハードルが低かった80年代に、私自身も漫画を描いていた。
そして本書を読んで悟った、どのような角度からでも、自分の作品を商業誌に載せることは、たとえタイムマシンがあったとしても、無理だったのだということを。

自分はそのことをうすうす悟っていたのに、見て見ぬフリをしていたのだ。

そのことを再認識した。

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