【書籍】・「10年代文化論」 さやわか(2014、星海社新書」
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「残念」という言葉をキーワードに、2000年代の若者文化の変容を通して、2010年代はどうなっていくのかを考察した本。
対象に対する真摯さがにじみ出ており、全体的に感じのいい本だが、キーワードである「残念」の意味が今ひとつ、よくわからなかった。
ただ、ニコニコ動画、ボーカロイド、アイドル、オタクなどの各論はよくまとまっていて勉強になった。
逆に、ライトノベル、秋葉原通り魔&黒子のバスケ脅迫事件の分析はピンと来なかった。
ただ、いくつかヒントがないわけではない。
ライトノベル(とくに「僕は友達が少ない」)と「秋葉原通り魔&黒子のバスケ脅迫事件」は、両方とも「内面」、「キャラ」をテーマにしており、ほぼ同一のことを違う角度から語っていると言ってよい。
私がピンと来なかったのには理由があって、本書にも書かれている明治以降の「近代的自我(内面)」の、カウンターとしての「キャラ変」みたいなもの……時と場合によって、表面を使い分けるというような……を、個人的にあまり信用していないからである。
「近代的内面」は確かにフィクションかもしれないが、それに対して「時と場合によってキャラを変える」ことが絶対かというと、やはりそうでもないと思うのである。
とくに、本書ではそこまで踏み込んでいるわけではまったくないが、犯罪は個人の「自我」が、時と場合が変化しても同一であることを前提にしないと法によって裁くことができない。本書で取り上げられている二人の容疑者は、どちらも仮想の自我を持っていたとされているが、それではそもそも法で裁くことができるのかという問題すら浮上しかねない。
さらに、「キャラ」を持っていたのならなおさら、犯罪など起こさない、自我の同一性にこだわる人よりも世渡りがうまくなければいけないはずである。
一方で、「オタク」に関しては、当のオタクたちが忘れてしまったことを思い出させてくれている。
すなわち、岡田斗司夫が目指したのは「オタク的な、アニメやゲームというジャンルや、それのクリエーター」の地位向上ではなく、「オタク」という目利きの存在だったのだという点である。
このあたり、「オタクはサブカルに勝った!」と無意識に思っているような人々は忘れ去っている部分であり、おそらくそんな忘却のされ方をしたからこそ、岡田斗司夫は「オタクは死んだ」と言ったのだろうと思う。
ここから先は岡田斗司夫の話になる。
彼が、アニメ評論に賞を設けるという場で、「評論は評論で、アニメとは独立した価値がなければならない」と主張したことや、BSマンガ夜話で、「作品」とは、送り手と受け手、双方の解釈を総合したところに生まれるのではないか、と主張していたことが思い出されてくる。
実はそれらの話を聞いたとき、自分にはその真意がよくわからなかった。なぜなら、評論家は、対象となるジャンルへのリスペクトを表明したり、「自分はそのジャンルを応援する応援団です」みたいなことを言ったりするからである。
評論家は、自身の優位性を主張すると仕事がしにくくなるからか、あまり自分の「目利き」部分などはアピールしない。そんなこんなで、岡田斗司夫のオタク感が、忘れ去られてしまったということは、あっただろうと思う。
だが一方で、岡田斗司夫の「理想のオタク像」は具体的にはどういうものなのかは、今ひとつ、わかったようでわかりにくいところがあった。
おそらく、クリエーターではない人間がクリエイティヴなことに決断をくださねばならない場で、「オタク」的センスが発揮され、それが評価される状況、を理想としていたのだろう。
話を本書に戻す。
「残念」の概念が理解しづらいと書いたが、まったくの予想で考えた場合、本書の作者は、「残念なものを受け入れなくなる時代の到来」を恐れているのではないか、とも思える。
格差化や隣国との摩擦による、人と人との対立。余裕がないことによって視野が狭まり、何かと物事に非寛容になる時代。それを恐れているのだとしたら、納得はできる。
「内面」や「キャラ」の問題も、「愛国者」として自身をタイトに自己規定し、他国へ憎しみを向けることを何も疑問に思わない、そんな時代を恐れてのことなら、納得できる。
まあ、こちらの深読みかもしれないが。
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