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【書籍】・「私も女優にしてください」 バクシーシ山下・編(1997、太田出版)

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担当編集者が、AVの企画モデル二十数人にインタビュー、その後、AV監督・バクシーシ山下が編集者とその娘たちについて対談した本。
これは個人的には衝撃的な本。なにしろ、登場する99パーセントの女性が顔もおっぱいを出して全身像で映っている。アンケートで彼女たちの仕事への意気込みや趣味趣向が書かれてあるが、後はムチャクチャ言われ放題。女性たちの名前はすべて仮名だが、それにしたって、ネットの発達した現在、こんな本は出せないだろう。

もう「忌憚のない意見」どころじゃない。「こいつはAVの仕事を勘違いしている」、「この子は熱心だけど仕事は来ないだろう」、「こいつ大嫌い、撮影のときに性病移されて来やがって」とかもうムチャクチャである。
現在だったらネットでフェミ関係の人が黙っていないのではないか。ミスリードに導く紹介記事の見出しだって簡単に思いついてしまうぞ。

だが、ちょっと待ってほしい。現在はどうか知らないが、本書の発刊当時、AVの企画ものの女優のほとんどは、数ヶ月単位で現れては消えていく存在だったらしい。職業意識が薄く、遅刻やすっぽかしなどにも撮影する側は悩まされていたらしいのだ。
本書は、「企画もののAVに出演したがる娘たち」の心理を、言いたい邦題言いながら推測していくのだが、出演したことすら忘れてしまう人がほとんどのようだ。そんな、いついなくなるような女性を何百人と相手にしているのだから、まぁ文句のひとつも出てしまうことはあるだろう。
それに、本書が出た当時、「どこにどんな本が出ていたか」は、今以上に「そういうのが好きな人」がアンテナを張っていなければわからなかった。つまり本書でボロカスに書かれていることを、本書に出て来る女性のほとんどが知らない可能性が高い。
ネットが発達しすぎて、ジャンル間の越境はいい作用ももたらしたが、「ジャンル内だけで通じるコト」が外部に漏れてしまい問題になることも非常に多くなった。「人工知能学会」の表紙などはその典型で、現在と本書発行当時は状況が違うことを把握しておくべきだろう。

本書にはいくつか重要な指摘がある。たとえば、バクシーシ山下は言う、「ファッション雑誌なんて、兵器の雑誌みたいに『自分が買う』って想定しないで読めばいいのに、みんな自分が買いたいと思ってしまう」(大意)と。
そしてお金が欲しくなる。そこでAVに出る。

97年当時、「ブランドものが欲しいから企画ものAVに出演する」というのはかなりエキセントリックな行為だったかもしれないが、こうして欲望だけあおられて支払えるお金が伴わない人たちは、(AVに出ないのであれば)同時期に「借金」に手を出す人たちとして認識されつつあったのだ。
何十人と登場する女性モデルの中で、「セックスが好きだから」と言い放つ人は多くはなく、将来の夢のために出演料を貯金する、と言っている人も、どこまで本当だかわからない。
夢って何? 欲望って何? お金って何? もしかして、どれも本当に欲しいんじゃないんじゃないの? でもじっとしていては何も面白いことがないので、動かざるを得ない……。

そんな「虚無」のカタログとしてさえ読めてしまう。つくった方はそんなことツユほども考えていないと思うが、読後、心の中に寒風ふきすさぶ書籍として、歴史に名前だけでもとどめてほしい。

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