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・「マーダーライセンス牙」全22巻 平松伸二(1989~1994、集英社)

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スーパージャンプ連載。
ふだんはスポーツジムの講師である木葉優児は、実は木葉流忍術の十四世継承者であり、日本でただ一人「殺人許可証」を持っている。彼は内閣総理大臣・板垣重政からの指令により、ぜったいに許せない悪人を抹殺するため、今日も複雑な社会情勢の中に身を投じる。

・その1
作者自身が、イベントで「マンガ家として一本立ちできたと感じた愛着ある作品」としてあげていたのが本作。
有名な作品ではあるが、通して読んだことがなかったので最後まで読んだ。
作者が本作に愛着があるのは、おそらく原作付きだったヒット作「ドーベルマン刑事」の語り直し、の要素があるからだろう。
「ドーベルマン刑事」も、本作ほどではないが当時の社会問題を題材に、その中で巨悪に挑む主人公が描かれていた。
それを原作なしで一人で成し遂げた(終盤はアイディアを提供するジャーナリストがいたようだが)ことが、作者の成熟ぶりを表している。

・その2
しかし、本作は「ゴルゴ13」などと違って、時事問題をむりやり善悪に分けなければならないという部分がネックだった。実際、死刑廃止問題を題材にした14話は単行本には収録されなかった(後に短編集に収録)。
後から読んでいるこちらも後だしジャンケンにはなってしまうものの、天安門事件など、今となっては観点が少々変わってしまったものもあるし、「こんなやり方で政治外交がうまく行くのか」と疑問に思う部分もある。
スーパージャンプの方針だったのだろうが、このテの作品にありがちな「ゆきずりの美女との情事」などは、ほとんど描かれていない。おそらく、最初から女っ気がないことを踏まえて、木葉が女性に変身できる、という設定を入れたのだろう。
結果的に、木葉優児は中性的な、ピュアなヒーローとしてキャラが立つこととなり、「牙」のやることは「板垣総理の汚れ仕事」ではなく、ほとんど「天誅」として描かれることとなった。

・その3
さて、本作が生み出したキャラクターとして木葉と同じくらい重要なのが板垣総理だろう。
日本のマンガではそれまでほとんどなかったと言っていい、「理想の総理大臣像」を体現した存在であり、「幕張」などのパロディでも記憶に残った。
この、板垣総理の政策、方針こそが、本作が娯楽作品である以上、80年代後半から90年代前半頃までの、読者が納得しうる最大公約数的な「正義」であろう。

その「板垣総理の方針」を観てみる。
まず、彼は太平洋戦争に参加経験があり、日本はぜったいに戦争をしてはならないと思っている。
その反面、アメリカに対する追従外交をよしせず、毅然とした態度を取る。
この二点が、板垣総理および本作の「絶対的な方針」である。

だが、この二点は大きな矛盾であり、その矛盾を「裏の仕事」によって解決するのが超人「マーダーライセンス牙」であるというファンタジーが、本作なのだ。
(日本の再軍備と戦争を画策する右翼のフィクサーとその息子は、牙の最大の敵となって立ちふさがる。)

この「非戦、反戦」と「アメリカからの日本の独立」は、当時の日本人の普遍的・潜在的願望だったらしく、同テーマで超人的忍者にまかせずに、もう少しリアルな方法を取ろうとしたのがかわぐちかいじの「沈黙の艦隊」である。

どちらも、「豊かになった日本が次に望むものは何か?」という前提なのは同じでありつつ、現在とは状況が様変わりしてしまっている。

現在でも平松伸二は「時事ネタ」で作品を描き続けているが、それがどう変わって行ったか、変わっていないかについては、またいつか。

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