【評論とは】・「『土下座問題』ってホントか?」
この間、「クローズアップ現代」で、「半沢直樹」や「謝罪の王様」をネタに、「人を屈服させて快楽を得る、『土下座ブーム』だ」みたいなことを言っていて、「ホントかあ!?」と思ったのでそれについて書きます。
・その1 土下座に歴史はあるのか
番組では、薬害エイズ問題の謝罪における土下座、焼肉屋の食中毒の土下座から、ファッションセンターしまむらの「土下座」事件に、ドラマの土下座をからませ、なかなか巧妙に番組づくりがなされていた。
だが、「何が何でも人を屈服させておとしめようとする、殺伐とした現代日本」みたいなことはあまり関係ないと思う。
もうずいぶん前の「古畑任三郎」で、ある政治家の、名前はよくわからないけどイメージのアドバイザーみたいなやつが、わざと担当の政治家を失脚させるために、釈明、謝罪の際に悪印象の残ることばかりをアドバイスする、というのがあった。
ということは、当時から「謝罪は『印象』である」ということを、「古畑」のつくり手は見抜いていたということだ。
「謝罪」というのは、「劇場型」の現在に限らず、「手打ちのおとしどころ」というのは昔からあった。
確かに、土下座や坊主頭の強要など、ばかげているとは思うが、逆に言えばそこが謝罪の終着点だということである。
不祥事を起こしたタレントや政治家が、ボランティアをやったり、介護の仕事をしばらくやったり、というのもそれに該当する。
気遣いをする仕事でも、営業マンとかホテルのボーイとかはダメで、やはり「介護の仕事」なのだ。
そもそも土下座とは、身分社会において、身分の上のものに対する「礼」だったのが、身分社会が消失してから、「最上級の謝罪のかたち」となった。
変化があったとしたら「そのとき」であり、それ以降、「土下座」そのものの意味は変わっていないのだから、私は「土下座の変遷史」とか「土下座ブーム」のようなものは「ない」と考えている。
・その2 謝罪のおとしどころかどこか
私は「しまむら」の土下座よりよほど重要視しているのが、AKBの峯岸みなみの「坊主になっての謝罪」である。
なぜかというと、「謝罪」のおとしどころを、一歩エスカレートさせてしまったからだ。
峯岸の「坊主謝罪」は、引退をのぞいて最上級の「謝罪」となってしまった。こういうことをされると、それまで有効だった「坊主よりは軽い謝罪」が、無効になってしまうのだ。
しかも、土下座問題とは話がそれるが、果たして二十歳を過ぎた、自立した女性が男性とつきあうことにそこまでの謝罪が必要なのか、という問題も残してしまった。
よく「日本人は横並び」などというが、「謝罪」にしろ「お礼」にしろ、他人と同程度であることこそが重要なので、一人だけスタンドプレーをやり、それが受容され、なおかつ話題になってしまうと、「横並び」の状態が一歩、エスカレートしてしまうのである。
だから、「土下座」も、同じ論法で行くなら糾弾されるべきは半世紀以上前に、謝罪の意味で「土下座」した人ということになるのだろうが、もはや特定することはできないのである。
・その3 他人同士は、マニュアルを経て再会する
「しまむら」における土下座がなぜ発生したのかというと、何らかの理由で、クレームに対して「土下座」以外のおとしどころが「その場」では存在せず、マニュアル化されていなかったからだろう。
ウチもずいぶん前に洋品屋をやっていたが、30年くらい前に、「買った毛布に穴が空いているから土下座しろ」なんて客が現れたら、怒鳴りつけて叩きだして終わりである。
その責任は、ウチの店が負う。
しかし、「しまむら」はチェーン店であり、さらに店員は支店に雇われている身。となるとクレームにはマニュアル以外の対応はできず、マニュアル通りにやって折れない客に、土下座することになったのだと思う。
「謝罪」における問題点は、マスコミやネットを巻き込んだ劇場型であるとか、人が人の恥をかいているところを見て喜ぶ公開処刑だとかいうところにあるのではない。
狭いコミュニティでは成り立っていた「謝罪のおとしどころ」がいったん破壊されてしまい、個人個人が再度、マニュアルを通してぶつかっていかなければならないところにある。
これは、「モンスターペアレント」とか「ドクハラ」の問題などにも通じる。
本来、「暗黙の了解」という知の上で成り立っていた関係が崩壊してしまったからこそ、生じる問題なのである。
都市圏の人々は、その関係における「つきあい方」を喪失しかかっており、それは消えゆくばかりで、代わりに「マニュアル」を通して他人と向き合うことになる。
だから、マニュアルがないところには異様な光景が現出してしまうのだ。
それが、「謝罪」の問題にとどまらない、「人づきあい」の問題点なのである。
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