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・「PUNK]全4巻 長尾謙一郎(2010~2012、白泉社)

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ヤングアニマル連載。
妻子がいる、平凡な生活を送っていたと思われるマンガ家・長尾の自宅に、ある日ファンを自称する巨大な黒人女が訪れる。
それが、長尾の運命を大きく変えるきっかけとなった。彼は世界を裏であやつる「バビロン」の関係者を抹殺せよと、指令を下されるのだ。

主人公と黒人女は、謎の白人男から、世界をあやつる存在との戦いを命ぜられ、内閣総理大臣やその彼をあやつる黒幕、果てはその日本をあやつるアメリカ政府と戦うことになる。
「革命」という言葉が頻出し、「バビロン」という言葉も出て来る(もともとレゲエ用語らしい。HIPHOPの人たちが「権力」とか「利権システム」みたいな意味あいで使うコトバ)。
ならばこれは、反体制の物語かというと、どうも作者の内面の移り変わりを描いたようである。なぜなら、人間が液体に浮かんで瞑想する(?)装置「アイソレーション・タンク」や、露骨にドラッグによる意識変容の描写が出て来るからだ。

作者の長尾謙一郎は、サブカル好きのするギャグマンガから「ギャラクシー銀座」で、都会人の孤独を幻想的に、そしてリアルに描き切った人だから、本作も大いに期待して読んだのだが……。

正直、感心しない。
理由はいくつかある。
まず、今の世の中で革命を起こそうとしたら、方法は限られている。本作は、そこをわかっているのかわかっていないのかが、わからない。
革命の可能性に関しては、マジメに革命を起こそうとしてる人たちが知恵を絞っていていろいろ結論が出ているようなので間違いない。だが、果たして筆者がそれをどの程度深刻に受け止めているのか、わからない。
日本を裏であやつる者が、奇怪なユーモアをそなえ、さらにアメリカで世界を裏であやつるものが、革命家と裏でつながっている……そんなことは、想像すれば思いつくことだ。
長尾と黒人女の、革命への過程はそれが筆者の内面だと考えても、リアリティがなさすぎる。しかも、中途半端に現実的なのだ。

次に、本作が完璧に作者のインナースペースの話だったとしても、わけがわからないことには変わりがないし、一人の中堅作家の悩みだとしても、それを読者が共有させられる理由がわからない。「自分」にこだわってしまった結果、「ギャラクシー銀座」にあった、幻想的だが奇妙に共感できる描写は、ここにはないように思う。

なぜこんなことが起こるのか。それは、わが国では「政治」が「創作物」とあまりにも乖離しすぎてしまったからである。
「政治」が描けないから、クリエーターは、極端に内面宇宙に潜って行くしかないのだ。
そういったことは、作者だけのせいではないのだが。

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