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【創作小説】・「政次郎とトシユキとEM」その2 トシユキ

その2 トシユキ

 御堂トシユキは、町はずれの戸澤政次郎の家に向かっていた。
 ゆるやかな坂を登って行く。
 トシユキは手足がひょろ長く、なんとなくホストくずれのような軽薄な風体をしていた。実際、ホストをしていたこともあるが、数カ月でやめてしまった。
 彼の顔には、複雑な表情がへばりついている。
 トシユキの仕事は、借金の回収だ。しかも、完全に合法とは言い難いたぐいの借金、いわゆる闇金である。
 彼は、まだこの業界に入って数カ月しか経っていない。もともとは彼自身がその会社に多額の借金をしていたり、複雑な事情があるのだがそれはこの話には関係がない。
 「戸澤政次郎の件は面倒だ」という話は、前々から聞いていた。
「どう面倒なんですか?」
 トシユキは上司にあたる人物に聞いてみた。
 その人物は、何とも複雑な顔をしていた。
「ま、その、何だ、出るんだよ」
「出るって? 幽霊がですか?」
 トシユキは無邪気にたずねたが、聞かれた方はますます複雑な顔をして、
「それが、幽霊じゃねぇんだよ。どうにも説明のしようがねぇんだ」
 そういうと、急に名案を思いついたようにパッと表情が明るくなり、
「トシユキ、おまえが戸澤の件、やってこい」
 そう突然言い出した。
「おれがですか?」
「おまえがだよ」
 さも当然というふうに言われた。
「でも……出るんですよね?」
「幽霊は出ねぇよ」
 仕事を言い渡した方は、急に肩の荷がおりたとあってニヤニヤし始めた。
 トシユキにはイヤな予感がした。彼の勘は、当たるのだ。これまでも、「勘」で命拾いしたことが何度もある。
 何とか言い逃れしようとしてみたが、馬鹿野郎やれったらやれよと怒鳴られて一蹴されてしまった。
「あのじじいは高価なクラシックカーを持っている。売れば2000万にはなる。それをおさえれば、何の問題もないはずだ」
 そう言われた。もともと、あのクルマを借金のカタにするということでまとまった話のはずだった。
 だが、「実は動かない」ということがひょんなことから発覚し、話がややこしくなってきた、ということもトシユキは知っていた。
 それに加えて、何かが「出る」という。社員の間では、「政次郎の家は『出る』」という噂がまことしやかに広まっていたことは、後から知った。実際いまだに借金の回収はできていない。
 そんなことを考えているうちに、そろそろ政次郎の家のはずだった。坂を登ってから、巨大な廃工場の角を曲がるとやつの家だ。
 廃工場が見えてくると、クソッ、面倒くさいな……と思えてきた。トシユキの悪い癖だ。ちょっと複雑な案件があると、何もかも億劫になって投げ出してしまいたくなるのだ。
 自然と足取りも重くなる。「このまま帰ってどこかに逃げてしまおうか」……非現実的で投げやりな感覚が、トシユキを襲った。
 そのとき遠目に、小学生くらいの子供たちが二、三人、走り抜けて角を曲がって行くのが見えた。
「なんだ、ガキの遊び場になっていやがんのか」
 トシユキは目を凝らした。そしてその途端、心臓のあたりが急激にモヤモヤしてくるのを自覚した。もう一度、走り抜けていった子供たちが角を曲がって戻って来たのだが、それは子供ではなかった。
 いや身長は明らかに1メートル数十センチの子供だったが、今まで見たこともない、潜水服のようなものを着た奇怪な者たちだったのだ。
 全身の色は濃く暗い橙色で、背中に酸素ボンベのようなものを背負っている。背中のボンベから前方のヘルメットにパイプが回っていて、それが口に当たる部分に取り付けられている。目の部分はゴーグルがはまっていたが、サングラスのようになっていて内部は見ることができなかった。
 二、三人ではなく「三人」と、はっきり視認できた。それぞれまったく同じ服装をしていたが、それぞれが違った計測器のようなものを持っていた。走り回っているのは遊んでいるわけではなく、何かの調査をしているらしかった。
 トシユキは立ちすくみ、気ぜわしなく何らかの「調査」を行っている三人のヒューマノイドを見つめ続けた。
 トシユキは二十代前半で、彼が物心ついた頃にはUFOブームはすでに終わっていたから、「宇宙人」の存在を信じたことは一度もなかった。また、「宇宙人」と言えば、「未知との遭遇」に出てくるようないわゆるグレイタイプ以外は知らなかった。
 一方で、Jホラーに普通に親しむ世代でもあった。要するに、グレイと幽霊を「認識」することはできても、それ以外の怪異を脳内で解釈することができないのだ。
 つまり「身長1メートルくらいの、暗い橙色の潜水服を着たものたち三人」が、いったい何なのかが、彼には認識することができない。
 その場で起こっていることを、ただ黙って見つめているだけだった。
 そして三人のヒューマノイドは、トシユキが立っている場所の手前の角を曲がって行ってしまった。

「その3」へ続く

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