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・「旦那さんはアスペルガー」野波ツナ(2011、コスミック出版) ・「旦那さんはアスペルガー ウチのパパってなんかヘン!?」野波ツナ(2011、コスミック出版)

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「なぜか話が通じない」、「もしかして自分の感覚と違う?」二人の子供を育て、仲良くやって来た夫婦だったはずなのに、夫に対して疑問がわいてくる妻(作者)。

タイトルどおり「旦那さんがアスペルガーだった」という内容のマンガで、その題材から言ってあまりうかつな発言はできない。
それを前提とした上で、私は本作には衝撃を受けた。

それは、作者(妻)の、旦那さんとの距離の取り方と、それをマンガに描くときの距離の取り方について、である。
これが絶妙なのだ。

旦那さんや奥さんをネタにした実録チックなギャグマンガは少なくないだろう。だが、それらはたいてい冷徹な観察眼のたまものであり、それをわざわざ本人も読むマンガにしてしまうというのだから、夫婦間の信頼関係がなければ辛辣なことも描くことができないはずである。

本作はそうではない。夫への信頼が崩れかかっている人が、懸命に彼を理解しようとするマンガなのだ。
いや正確には理解しようとするマンガですらない。「理解できない部分」をも自分に納得させようとする作品なのである。
いやいやそれだけでは私の衝撃を言葉にできない。なぜなら、「長年つれそってきてパートナーのイヤな面も理解できない面もみえてきた、でもそれが人生さ、フフッ」というような作品ならいくらでもある。そういうのとも本作は違うのだ。

この作者は、夫を突き離して観察しているわけではない。愛情がある。自分との関係性(なぜもともと気にいって結婚したか)も理解している。それでもなお、理解できない部分がある。そのことに対し、実際どう対応していくかを決断していく。その前向きな姿勢と優しさが、得も言われぬ感動を呼ぶ。
「夫がアスペルガーかどうか」は、作者にとっては夫を理解するためのとっかかりであり、「アスペルガーだからすべてダメなんだ」とも「アスペルガーと診断されたからそういう観点に頼りきろう」とも思っていない。それは、夫が単なる観察対象ではなく、(おそらく)自分と関係している一個の人間だからである。

このような距離の取り方は、生半可にできるものではない。
もちろん、本作はマンガだから、「振り返って今だからこそ描ける」とか、「自分に都合が悪いから描かない」部分もあるだろう。だがそれを含めて、本作はすごいと思う。

本作で、作者の夫が問題になるほど「やらかしてしまったこと」は二点。借金と退職を同時に行ったことだ。
それ以外は、ほとんどが日常のサマツなすれ違いの積み重ねにすぎない。だが、この「日常のサマツなすれ違い」を、「まあ人間いろいろだよね」とごまかさずに、かといってことさらに大問題として騒ぎ立てるでもなく、描いたのがすばらしいのである。

本作に、「人間なんてシャラララさ」と、安易なブラックボックスに追い込むたぐいのギャグマンガが対抗できるか。
いや、できまい。

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