【映画】・「極道社長」
監督:中島貞夫 1975年、東映
脚本:松本功、山本英明、中島貞夫
ちょっと頭のいいチンピラ(室田日出夫)と、お人好しでガマン強いことだけが取り柄の男(川谷拓三)が、勝ち組金融ワンマン社長の三井住友(変な役名、梅宮辰夫)の怒涛のイケイケ事業に巻き込まれる。
ちょっと検索したら「いつもの東映のお約束」みたいな感想が多いが、本当か?
違うだろ?
もう浴びるほど東映(実録以降)任侠映画を観てきたが、本作はちょっと変わっている。
だから、いつもは70年代の東映映画を観てもいちいち感想は書かないのだが、書くのである。
なお、盛大にネタバレします。
・その1
まずストーリーを追っていこう。
梅宮の経営する飲み屋で暴れた室田&川谷は、飲み代が払えず梅宮に身ぐるみはがされる。
これが彼らの最初の出会い。
川谷は何をやってもダメだったらしい男で、室田を兄貴分と慕い、同居している。
室田も無一文で、彼が東映でふだん演じている役柄からすれば拓ボンもえらい貧乏くじを引いたな、とだれでも思うが、下宿の一階にある食堂で店主のおばさんに頭を下げて、室田のみそ汁をもらってやるシーンまである。
室田に惚れこんでいるのだ。
室田は意外にもアイディアマンであり、ふとしたことから葬儀屋と便所のくみ取り屋を始めようとする。ところが葬儀屋はともかくくみ取り屋は役所の認可もいるし、元手がかかる。そこに現れたのが冒頭現れた梅宮で、銀行が貸せないカネを貸してやるという。
彼には恨み骨髄の二人だったが(拓ボンは「だれがおまえの金なんか借りるか」と怒り狂う)、室田は少々知恵が回るので、梅宮の申し出をすんなり受け入れる。
ところが、梅宮はチンピラに金をつかませて二人をボコボコにし、「このまま休業が続いて役所の認可取り消しをくらいたくなかったら、事業を引き渡せ」と言い出して乗っ取ってしまう。
梅宮は、室田&拓ボン(さらにはもう一人、拓ボン以上に情けない子分キャラの男)を雇ってこき使う。
・その2
ここまで観て、あれ? あれ? と思っていた。
東映は基本的に、チンピラや弱者に優しい。だって、観ている観客がその立場だから。
あるいは70年代の中島貞夫に関しては、鈴木則文や深作欣二ほどではないかもしれないが、やはり時代の流れとして反権力の気風がある(本作と同じ年に公開された「暴力金脈」を観ても、それはわかるはずだ)。
それが、ここまでの展開では弱者である室田&川谷は、頭がよくて資金もある梅宮に単にいたぶられているだけである(梅宮の役者としての愛嬌が救っているが、それがなければ単なる極悪経営者の話である)。
で、ここが重要なのだが、最近のドラマや映画は、このままの展開ですんなり、梅宮的(役名としては三井住友的)行動を肯定してしまうことが多いのだ。2000年代移行ね。
だから、本作は、75年にはこのような物語がどこにおとしどころを持って行くか、そして2011年現在に新作として同じおとしどころが通用するのか、という問題提議を結果的に、しているところが重要なのである。
確かにキャバレーで女の子たちがノーパンになってテーブルの上で踊るシーンは面白いよ、室田&川谷の情けなさも、笑ってしまうところはあるよ。
でも、決して映画全体はお約束ではない。本作は、実録路線も終盤の頃だと思うし、脚本にひねりをくわえようとしてねじれが生じたと、私は考えている。
・その3
そんなイケイケの三井(梅宮)だったが、キャバレー経営に乗り出したあたりでヤクザに目を付けられる。要するに傘下に入れと言われるのだが、「極道的」でアコギな商売をしている三井であったが「極道そのもの」ではなかったと見えて、きっぱりとはねのける。
だが、夜道でチンピラたちに囲まれてボコボコにされる。
暴力に訴えられて頭に血がのぼった三井は、こんなようなことを言う。
「今まで強い者が勝つ、長いものにはまかれろと思っていたが、今回のことは頭に来た。徹底抗戦する」と。
ここが、現代の物語と当時との「おとしどころ」の分かれ目だろう。
今だったら、ヤクザと勝ち目があるかどうかわからないが徹底抗戦する、という展開はあり得ないのではないか。
たとえば「ミナミの帝王」だったら、この段階で萬田はんが「必勝の秘策」を用意していて、それが展開されて終わるはずである。
ここで初めて、ヤクザ>三井(梅宮)>室田&川谷、という弱肉強食の構造が明らかになり、三井はその大きな流れに組み込まれているにすぎないことが、明らかになる。
このあたりのことは、中島貞夫監督ではパッと思いつくだけで「現代やくざ 血桜三兄弟」や「唐獅子警察」でも描かれている。
つまり、本作では「最初、弱者を利用してのし上がってきた三井(梅宮)」が、弱肉強食構造の一つでしかない、というところが他の映画と違うのだ。
たいてい、その立場となるのは東映任侠映画では、もうちょっと明朗な(?)昔カタギの主人公か、野良犬のような激しさをもったチンピラか、あるいは彼らの親分だからだ。
・その4
そして三井のキャバレーはヤクザのいやがらせのために店を営業停止に追い込まれるが、三井は「それを逆に宣伝に利用して、二号店をつくる」と言い出して物件探しを始める。
「いい物件がある」と持ち込んできたのが、事務所で雇っている女性の父親(殿山泰司)で、詐欺師。
三井は不動産のカラ売りに引っかかり、あり金をほとんど持って行かれてしまう。
イケイケ男の、最初のザセツである。
ここから先は、多少ひねってはあるが要するに「任侠映画のなぐり込み」だ。
ここで、この「なぐり込み(正確には違うが)」に付き合うのが三井(梅宮)からサクシュされている室田&川谷で、なんでこき使われている彼らが、という描写が実にうまい。
ある程度目はしのきく室田は、三井を憎みながらも(自分たちを襲ったチンピラは三井が雇ったものと見抜いている)、その度胸や商才は買っており、拓ボンは本作では室田を尊敬しきっているから、室田の言うことは何でも聞くのである。
とくに、室田の本作でのキャラクターは東映の映画の中でも特異だ。
度胸一発突っ込んでいくタイプでもなく、狂犬のような男でもなく、完全な切れ者というわけでもない。
だが、バカではない。ここを指摘せずして「あーいつものお約束ね、はいはい」と言ってしまっては、この映画を半分も楽しめていないのではないか。
ラストはけっきょく、三井(梅宮)の一人勝ちで終わるが、ここはファンタジーだと観るべきで、本作はやはりひねってはあるが「のし上がろうとした男が、旧勢力に力で潰される」という東映(実録路線前後の)任侠映画全般の構造は変わっていない。
やくざとの乱闘で室田と拓ボンはボロボロになるが、最後にテープレコーダーから軍歌が流れてくる。
この歌、タイトルは知らないが同じ中島貞夫の特攻隊を描いた映画「あゝ同期の桜」で航空兵たちが合唱する曲である。
室田&川谷が梅宮に利用される姿が、戦中日本や70年代当時の一般社会で、権力者や自分より強い者に利用される若者の悲哀を表しているのは間違いないだろう。
なお、三井(梅宮)は、自分が憎からず思っていた従業員の女性の父親(殿山泰司)を信じてしまったことを悔やむ。彼にとっては人間を信じることは失敗だったのだ(だから、彼には友人も恋人もいない)。
本作では強い絆で結ばれている室田&川谷はいい目を見ず、金しか信じていない三井(梅宮)だけが勝利する。
中島貞夫だからそのバランスは絶妙なのだが、繰り返すが三井(梅宮)的な人生観を過剰に持ち上げ出したのが、昨今の……2000年代以降のエンタメの特徴だ。
そして、反面、室田&川谷的な人間関係は、ヤンキーもの、ギャングもので過剰にクローズアップされるという二極分化が起こっているのである。
あるいは、アンダーグラウンドの領域ではあるが、「BL的目線」によるホモソーシャル的関係の解体(妄想している人たちは解体しているつもりはないかもしれないが、多様な視点が導入されたということはやはり「解体」だろう)がそのテの趣味がない人たちにも知られ出したことも、現代をあらわす特徴の一つだろう。
そんなわけで、本作は「現代の目線」で観るほど、興味深い内容になっているのである。
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