・「スカルマン」全7巻 石ノ森章太郎、島本和彦(1998~2001、メディアファクトリー)
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石森章太郎版「スカルマン」は、1970年、週刊少年マガジンに掲載された100ページの中編作品である。
復讐のためには何の罪もない人々も殺すことを辞さない仮面の男・スカルマンがたどりつく運命を描いた作品で、「仮面ライダー」の原型となったことでも有名である。
ところが、実際読んでみるとスカルマンはガチのテロリストで、とても子供向けのヒーローには向いていない。
石森氏が、ストーリーまで含めて「スカルマン」を特撮番組の企画にあげたかどうかはわからないが、常識的に考えてデザインのみのことだったのではないか。
さて、そんな石森版「スカルマン」だが、1970年という時代がどういう時代だったかを思い起こさせる問題作である。ちなみに「あさま山荘事件」より前の話で、それ以降、このような話はちょっと描けなかったのではないかと思う。
したがって、それの続編となるとますますむずかしい。単行本あとがきでは、作者の島本氏が石森氏と打ち合わせをして、たとえば「ラストどうやって脱出して主人公が生きているのか」などのくわしいアイディアをもらっていたという。
ウィキペディアを観ると、その後の石森氏の死や、掲載誌の変更によってそうとう迷走をしいられたようで、その辺は読んでいてもなんとなく察せられる部分はある。
だが、続編としての「島本版」が、コマ割りや構図まで「石森流」を忠実に再現しつつ、それでいてきちんと「島本和彦の作品」になっているのには舌を巻く。
逆に言えば、石森氏存命中は「マンガとして当然の表現」だったことは、ほとんどが使われなくなってしまい、「石森氏独自の文法」としての側面がより強調されたということだが、それにしても島本先生の再現力はものすごい。
本作でもっともむずかしいのは、「スカルマン」がかつてテロリストであり、確実に罪を背負った存在だということである。これはヒーローものの常道としては作品内でどのようなみそぎをしてもぬぐえない「罪」だ。
スカルマンを「改心した善人」として描くにしろ、悪のダークヒーローとして描くにしろ、この辺はきっちりしなければいけない部分だったが、最後まで中途半端だったことは否めない。
反面、設定上の面白さには特筆すべきものがある。まず、登場する怪人はサイボーグであるにも関わらず、「スカルマン」は超人ではあるが生身の人間であること。
次に「共感能力」を極度に発達させた人間ということで、外面的なパワー(サイボーグの力)と内面的なパワー(共感能力。テレパシーみたいなもの?)を両方描いていたところが興味深い。
ラストシーンには賛否両輪あるようだが、本作では「正義」を「新人類にたてつくこと」とはっきり規定したことにはそれなりの意味があるのではないか。あるいは、さまざまな変身ヒーローが「スカルマン」という「原罪」を背負っているとする解釈には、深いものがある。
いずれにしろ、評価が低すぎる作品である。
なお、文庫版では石森版も収録されているようなので(未確認)、そっちを読んだ方がより楽しめるはずだ。
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