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2011年5月

・「教師女鹿」全2巻 沼礼一、川崎三枝子(1978、芳文社)

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品行方正なある学園に、若い美人教師が赴任してくる。あらゆる規律に従わない彼女は、学園そのものを崩壊させようとしているかのようだった。
教育熱心な校長は、彼女の心を「調教」するために、教師たちにあの手この手を使わせるが……。

一時期はどこの古本屋にもあって、ワイド版も出た。映画化もされている[amazon]、川崎三枝子の作品では最も有名なのではないか?

本作の重要なところ、そして最もよくわからないところは、ヒロインの敵である校長が決して悪人でも過度の管理教育を推進しているわけでもない、ということである。
ネタばれになってしまうが、ヒロインの復讐の相手は管理教育のために狂気の世界に入り込んでしまった母親であり、母親と思想を同じくする(しかし別に狂気の領域には達していない)校長との戦いは「代理戦争」にすぎない。
このため、読めば読むほどよくわからないことになっている。
70年代という時代状況をかんがみれば、ヒロインにとって自由と快楽のためにはすべての規律は破るべきであり、すべての社会秩序のために己を抑えている人々は偽善者となる。ヒロインはその偽善の皮をひっぺがし、人々を欲望に殉じるけだものにすることに、何よりも喜びを感じるのだ。

が、もともとが「代理戦争」であるため、ヒロインと他の教師たちとの戦いにまったくカタルシスがない。
やや雑に言ってしまえば、「捨てられた鬼っ子」がその出自ゆえに社会に復讐するという、貸本怪奇劇画にあるようなパターンだと解釈すればいいのだろうが、やはり最後は母親との対決にすべきだっただろう。

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【ポエム】・「キリンが逆立ちして戻る」

キャーキャー!
キャー!
ヒデキー!
田中ヒデキー!!

田中ヒデキとゴールデンマックスー!!

田中ヒデキとゴールデンマックスが地方回りをするときに、
司会として付いて回っているお笑い芸人、
ピストン太郎ー!!

そう、これはピストン太郎の物語である。

ピストン太郎、
本名、飛須豚太郎は、
現在、18歳。

集団就職で上京し、
「ボジョレーヌーボーはお菓子のぬーぼーとは別モノである」
ということを訴える非営利団体に就職。

しかし、月給20円でとても食べてはいけない。

そこで考えたのが、

殺人である。

泥棒ではない。

殺人だ。

しかし、すぐに思った。

もしかして、「泥棒」と「殺人」は同じ犯罪でも、

「殺人」は、必ずしも儲からないのではないか!?

それが彼が最初に気づいたことである。

悩んでいると、アパートのお隣さんが、

「これ、ウチにこれ以上あっても意味ないから……」
と言って、札束をくれた。

彼はそれで、二十年間食いつないだ。

しかし、三十八歳のとき、貯金も底をつき、

田中ヒデキ(102歳)の付き人となる。

だが、田中ヒデキが天上界の神との抗争を決意。

ついに人類が、神に反旗を翻したのだ。

田中ヒデキとゴールデンマックスは、神と互角に戦うことのできる唯一の武器、
「カールの袋」を両手にはめてファイティングポーズを取った。

すると、世界は柔らかな光に包まれた。

神は人間の権利を認めた。
「欲望」を持ってもいい、という権利を……。

しかし、本当にこれでよかったのだろうか。
あいつぐ犯罪、戦争……。

すべて「欲望」が生み出したものではないのか!?

そんなことを考えながら、田中ヒデキが歌います。
「私、おんなです」
はりきってどうぞー!!
(完)

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【創作】・「美しくも残酷な思春期が嘲笑う」

pixivに、創作短編小説書きました。お暇な方はどうぞ。
小説 美しくも残酷な思春期が嘲笑う

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【特集上映】・「美女と探偵 ~日本ミステリ映画の世界~(神保町シアター)」

「美女と探偵 ~日本ミステリ映画の世界~」

  「探偵はみんな集めてさてと言い」――巨匠・横溝正史氏の作と伝えられる川柳です。ミステリ読者にはおなじみの、待ってましたと声をかけたくなるシーンですが、みなさんはこの一句に象徴されるトリックたっぷり、謎解きどっさりの物語が、わが国のスクリーン上でも展開されていたことをご存じでしょうか。
決して相性はよくないとされてきた本格推理と映像、とりわけ日本映画にも、探せばこんなにもたくさんの秀作があったのです。
 このジャンルに病みつきの連中ばかりが集まった本格ミステリ作家クラブの十周年を記念し、映画ファンと推理ファンの両方にお届けする特別企画。颯爽と登場する名探偵たちにどうか盛大な拍手を!

上映作品
◆6月4日(土)~6月10日(金)
1.『三本指の男』 監督:松田定次 原作:横溝正史「本陣殺人事件」昭和22年
2.『獄門島 [総集編]』 監督:松田定次 原作:横溝正史 昭和24年
3.『悪魔が来りて笛を吹く』 監督:斎藤光正 原作:横溝正史 昭和54年
4.『三つ首塔』 監督:小林恒夫、小沢茂弘 原作:横溝正史 昭和31年
5.『悪魔の手毬唄』 監督:渡辺邦男 原作:横溝正史 昭和36年
6.『吸血蛾』 監督:中川信夫 原作:横溝正史 昭和31年
7.『本陣殺人事件』 監督:高林陽一 原作:横溝正史 昭和50年

◆6月11日(土)~6月17日(金)
8.『死の十字路』 監督:井上梅次 原作:江戸川乱歩「十字路」 昭和31年
9.『蜘蛛男』 監督:山本弘之 原作:江戸川乱歩 昭和33年
10.『影の爪』 監督:貞永方久 原作:シャーロット・アームストロング 昭和47年
11.『誘拐』 監督:田中徳三 原作:高木彬光 昭和37年
12.『最後の審判』 監督:堀川弘通 原作:W・P・マッギヴァーン 昭和40年
13.『南郷次郎探偵帳 影なき殺人者』 監督:石川義寛 原作:島田一男 昭和36年
14.『猫は知っていた』 監督:島耕二 原作:仁木悦子 昭和33年

◆6月18日(土)~6月24日(金)
15.『悪魔の囁き』 監督:内川清一郎 原案:植草甚一 昭和30年
16.『四万人の目撃者』 監督:堀内真直 原作:有馬頼義 昭和35年
17.『わたしを深く埋めて』 監督:井上梅次 原作:ハロルド・Q・マスル 昭和38年
18.『猟人日記』 監督:中平康 原作:戸川昌子 昭和39年
19.『真昼の罠』 監督:富本壮吉 原作:黒岩重吾 昭和37年
20.『肌色の月』 監督:杉江敏男 原作:久生十蘭 昭和32年
21.『「空白の起点」より 女は復讐する』 監督:長谷和夫/原作:笹沢左保「空白の起点」 昭和41年

◆6月25日(土)~7月1日(金)
22.『多羅尾伴内 十三の魔王』 監督:松田定次 昭和33年
23.『死者との結婚』 監督:高橋治 原作:ウィリアム・アイリッシュ 昭和35年
24.『奴が殺人者だ』 監督:丸林久信 原作:樫原一郎「汚れた刑事」 昭和33年
25.『二十一の指紋』 監督:松田定次 昭和23年
26.『乱れからくり ねじ屋敷連続殺人事件』[テレビドラマ版]  監督:佐藤肇 原作:泡坂妻夫「乱れからくり」 昭和57年
27.『恐怖の時間』 監督:岩内克己 原作:エド・マクベイン「殺意の楔」 昭和39年
28.『姿なき目撃者』 監督:日高繁明 原作:渡辺啓助「浴室殺人事件」 昭和30年

トークイベント
6月4日(土) 芦辺拓、唐沢俊一 17:45~『三本指の男』上映終了後
6月11日(土) 芦辺拓、辻真先 17:45~『死の十字路』上映終了後
6月19日(日) 芦辺拓、有栖川有栖、北村薫 17:45~『「空白の起点」より女は復讐する』上映終了後
6月25日(土) 芦辺拓、京極夏彦 17:45~『死者との結婚』上映終了後 )

場所:
神保町シアター
東京都千代田区神田神保町1-23
電話 03-5281-5132
都営新宿線・都営三田線 東京メトロ半蔵門線
地下鉄 神保町駅3分
JR お茶の水駅8分
神保町駅からはA7出口より、すずらん通りを三省堂方面に進んで浅草厨房の角入る

入場料金(当日券のみ):一般 ¥1,200 / シニア ¥1,000 / 学生 ¥800

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【小説】・「アクアリウムの夜」 稲生平太郎(2002、角川書店)

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1990年に発行された幻想ホラー小説の文庫化。

高校生の主人公・広田は土曜日の午後、友人の高橋と二人で「カメラ・オブスキュラ」の見世物を観るために野外劇場へ赴く。
何気ないその行為が、後の混乱を呼び起こすこととなってしまった……。

これはよくできてます。「伏線が回収されてない!」なんて無粋な感想を抱くような人でなければ、確実に恐がることができ、楽しめるでしょう。

以下は単なる、本当の自分語りです。あまりにも個人的なので、別に読まなくていいや。

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【ポエム】・「ピエロがほほ笑む偽サウナ」

ピエロが ほほ笑む 偽サウナ
サウナのふりして 寒いだけ

タオルをまいた 男たち
ブルブル身体をふるわせて

ただじっと その場に たたずんでいる

偽サウナの中の テレビには
「まかないが美味すぎる店ベスト10」を
放送中

「まかないが美味いって……」
「もっと店の料理に全力を傾けろよ」

だれかが 言った

ピエロが、言った……。

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・「となりの関くん」(1) 森繁拓真(2011、メディアファクトリー)

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コミックフラッパー連載。
授業中、隣りの席の男子が手遊びをしているのを観る、ただそれだけ! がコンセプトの作品である。
一読した感想は、「ごっつええかんじ」の、毎回同じシチュエーションで次々とエスカレートしていくコントを観るに近い。

こういうミニマムな世界を描くことはとても重要なので、これからもがんばってほしい。

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【雑記】・「Chim↑Pomかどうかはともかく、あるいはあすのしんわ、あるいはむらかみサン」

「明日の神話に原発を付け足したのはChim↑Pom」、とネットニュースに載っているがちょっとどうもよくわからない。
なので、「彼らが付け足した」ことを前提として話を進める。

賛否両論で、しかもいろいろなレベルのものがある。
twitter上で知り合いと、「果たして彼らの勝利条件はどこにあるのか?」という話になった。

ええと、その前にまず前提を明らかにしなければならない。
こういったパフォーマンス的な所業の際、必ず「アートなど何もしらない人たち」の目に触れることになる。
そのことについて、である。

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【イベント】・ 「新田五郎のぶっとびマンガ大作戦・出張版 第7回『オバケとゆかいな仲間たち』」

「新田五郎のぶっとびマンガ大作戦・出張版 第7回『オバケとゆかいな仲間たち』」

ぶっとんだマンガを紹介してきたこのイベントも、はや7回目!! オバケにゃ学校も、借金もノイローゼも関係ない!! ありがとうって伝えたくて、今回はマンガにおける「オバケ」をやや拡大解釈して紹介します!!(妖怪とはかぎりません!) 紙の上ならなんでもできるゆえにさまざまな「異形のもの」を登場させてきた、マンガというジャンルの柔軟性をとくとご覧あれ!! ゲストは怪奇古本愛好家の中根ユウサクさんです!!

出演:新田五郎
ゲスト:中根ユウサク「怪奇古本愛好家(お化けとかUFOとかの変な本を集めてる人)」
日時:平成23年5月21日(土)
Open13:50/Start14:10
#昼イベントです

場所:ムーブ町屋 ハイビジョンルーム

荒川区荒川7-50-9センターまちや
地下鉄千代田線・町屋駅0番出口より徒歩1分
京成線・町屋駅より 徒歩1分
都電町屋駅より 徒歩1分
料金:¥2,000(当日券のみ)

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・「○本の住人」(4) kashmir(2011、芳文社)

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しっかり者のメガネっ子小学生女子と、ヲタクで絵本作家のその兄さんをとりまく面々。
かわいい。面白。

第3巻の感想

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【雑記】・「定点雑記20110519」

twitterやふぁぼったーを観て、流れてくるツイート、多くふぁぼられてくるツイートを観て痛感するのは、「人間は機械の一種であり、その個々の機械を構成する社会システム全般がうまくいってこそ、人間は幸せになれる。他のことでは幸せにはなれない」という趣旨のツイートがひんぱんに流れてきて、多く支持されている、ということだ。

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【アニメ映画】・「星を追う子ども」

監督・脚本:新海誠

母子家庭の少女・アスナは、不思議な少年・シュンと出会う。彼に淡い恋心を抱いたのもつかのま、その少年は死んでしまう。アスナは、新任教師・モリサキの言う死者が蘇るという地下世界「アガルタ」に興味を持ち始めるが……。

力作なのは間違いなし。

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【映画】・「これでいいのだ!! 映画赤塚不二夫」

1967年頃。小学館に入社した武田(堀北真希)は、入社式でイヤミのコスプレで新入社員たちに「シェー」を強要した赤塚をグーで殴ってしまい、それがもとで希望の少女コミックではなく少年サンデーに配属、赤塚の担当にさせられる。
「バカになる」ことを至上の価値とする赤塚と、彼に振りまわされる武田記者(堀北)を中心に巻き起こるドタバタコメディ(らしい)。

結論。マイナス1おくてん。

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・「ドストエフスキーの犬」 ジョージ秋山(2010、青林工芸舎)

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ジョージ秋山のレア作品短編集。
「30年」、「ザーメン」、「赤い海」、「糞虫忍法帳」、「ありふれた旋律」、「羽根がはえた漫画少年」、「慙愧」、「ドストエフスキーの犬」を収録。

売れたマンガ家とかつて親友であり、マンガをあきらめた青年との関係を描く「羽根がはえた漫画少年」、読んでいて思わずあきらめた方の青年に関して「おれだ! これはおれだ!!」と思ってしまった(笑)。
マンガ界での稀有な成功者である作者が、こういうものを描いてしまうというのが才能である。
他にはやはり表題となった「ドストエフスキーの犬」が出色。

私は基本的にジョージ秋山の誠実な読者ではない。ただし、彼が70年代のいわゆる「トラウママンガ」の一角を確実に担っていた、ということは言える(本作のすべての作品が70年代のものだ)。

巻末のインタビューで作者はすべての作品を描きとばしたものだ、というようなことを言っているが、半分は本当だろう。天才が超過密スケジュールの中で傑作を描きとばす、70年代のマンガ界はそういうものであり、いい悪いは別にして現在と創作状況がかなり変わっていることは留意しなければならない。

それにしても70年代、おそろしい時代であった。

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・「テルマエ・ロマエ」(3) ヤマザキマリ(2011、エンターブレイン)

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古代ローマ風呂コミックの3巻目。
2巻から異様にタイムスリップする前のフリが長く、複雑化してとまどったが、慣れてしまえばとても面白い作品である。
それにしても、映画はどうなるのであろうか?

2巻の感想

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・「テルマエ・ロマエ」(2) ヤマザキマリ(2010、エンターブレイン)

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古代ローマの浴場設計技師・ルシウスが、毎回、風呂に浸かっていると現代日本の風呂にタイムスリップ、何かを学んでまた元の世界に帰り、問題を解決するという1話完結の作品。
1巻が刊行された段階で話題になり、あれよあれよと映画化も決定、一気に「知ってる人は知っている作品」にのぼりつめた。
もろ手をあげてめでたい、と思う。

そして2巻のしょっぱなはいきなり男根信仰の話。
単行本内のエッセイでは「なぜこんな読者を選ぶ話を書いたのか」と言われた、と書かれているが、私もとまどった。

だがとまどったのは男根信仰が扱われているからではなく、「性が現在のようにタブー視されていなかった時代があった」というエピソードのテーマと、「性的不能に陥ったルシウスが、現代日本人女性の恥じらいを観たことによって不能から回復する」というプロットのチグハグさにある。

とくに、他のほとんどのエピソード(3巻も含む)が、「日本の風呂の機能」の問題に終始しているのに対し、本作だけは「現代日本人女性の恥じらい」という風呂と直接関係ないことがお話を動かしている。
そしてなおかつ、ルシウスの妻は他の男性の子供をみごもってしまうのだ。

このエピソードが少なからず「性は解放すべき」という意図に乗っ取っているにも関わらず(「キリスト教以前の男根の象徴性の再評価、という意味も入っているが)、けっきょくは「恥じらい」という「秘する文化」によって問題が解決されようとするのは、ヘンではないだろうか?
それが証拠に、ルシウスの解放的な妻はけっきょく戻って来ないのである。

その意味で、3巻まで読んだかぎりでは冒頭のエピソードは、突出して消化不良感が漂ってしまう。

1巻の感想

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【雑記】・「定点雑記20110514」

「定点雑記」と付けているのは、その日づけのときにはそう考えているが、後々には変わってしまうかもしれない、という含みを持たせるためだ。それくらい、自分には311以降の自分の発言には迷いがあった。

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・「あくたれ球団」 北沢しげる(1977、立風書房)

私の知るかぎり、ホラーものも手がける作者の野球マンガ。絵柄から「片岡かつよし」だと思ったら違ってたが、まあ小さな問題です。

暴れものすぎて小学校の野球部に入れてもらえない少年・チョロ松が、はみだし者ばかりを集めて「アウトサイダーズ」を結成。
ひとクセあるメンバーだが、そこそこの大人の草野球チームにも負けないほどの実力を持つ。
彼らはいろんなチームと試合をして勝ち続け、ついに小学校公式チームと試合をすることになった。

「アウトサイダーズ」のメンバーには車椅子の少女・ユキがおり(応援や子守を担当)、彼女は足の手術をするかどうか悩んでいた。「勝ってユキを元気づけよう!」と士気が高まるメンバーだったが、奮闘虚しく敗れてしまう。
しかしユキは笑顔で、「みんないっしょうけんめいやったじゃない」、「きょうのあなたたちを見ていたら 勇気がモリモリとわいてきたわ」と手術を決意するという、本当に、本当にありきたりな展開なのだが、ユキが、

「もし……それでもなおらなかったとしても わたしはぜったい負けないって心にきめたの みんなのようにあかるくたくましく生きるわ」

ここまで描かれて、私は泣いてしまった。だって、「もしなおらなかったとしてもぜったい負けない」って、このテのパターンで普通、言いますか!? たいてい「簡単な手術なのに本人がおびえてるだけ」みたいなご都合主義な設定を入れてあるはずでしょ!?

勝とうが負けようが関係ない。なおってもなおらなくても関係ない。ぜったい負けない。

……正直、今読む必要のある作品ではない。消えていっても仕方のない作品である。だが感動した。マンガにはこういうことがある。

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・「球速0.25秒!」原作:杉四郎、眉月はるな(1971、ひばり書房)

古書価格で1万円以上はするレアもの動物パニックマンガ「侵略ガニ」の眉月はるなが作画を担当した、野球マンガ。
甲子園でビーンボールを投げ、相手の打者の片目を失明させてしまった少年がグレてしまい、しかし転校した先の高校でも野球を始め、片目になった少年と再び甲子園で対決する、というマンガなのだが、とにかく湿っぽい。

……というか、子供の頃立ち読みしてあまりにウェットなので書棚に戻した本、三十年くらい経ってから買っちゃったよ!!

「ウェットでなかなか話が終わらない、だけど面白い」作風としては70年代当時、梶原一騎、花登筺、梅本さちお、牛次郎などがいたが、彼らはあくまでも一流作家だったから面白いのであって、「ウェットだったから面白い」わけでは当然、ない。
そういうことが本作のような埋もれていった作品を読むと、明らかになる。現在でも、「売れセン」を狙って面白くない作品があるから、要するにそういうことなのだが。

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・「切断王」(1) 鶴岡法斎、榊原瑞紀(2011、メディアファクトリー)

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2XXX年、日本政府から捨てられた犯罪都市・東京。独立自治を謳う「歌舞伎町政府」は、それぞれ異なった特殊能力を持つ「王」と呼ばれる者たちによって形成されていた。
殺された防衛局長「切断王」に代わり、その娘・衣音が二代目「切断王」を襲名。しかし、敵である九頭竜から「完璧な切断王ではない」と言われてしまう。
そんな中でも、歌舞伎町の治安を乱す者たちとの戦いは続いてゆく。

「無法化した歌舞伎町」、「特殊能力を持った犯罪者たち」といった設定は一見、陰惨になりそうだが(おそらく)原作の底流に流れるユーモア感覚や主人公が少女であること、そして端正な作画によって猥雑でありながら美麗、というとても面白いバランスの作品に仕上がっている。
巻末に外伝的な話が乗っていた悪役「棺桶担ぎのダゴン」は確かに面白いキャラ。あまり強くなさそうなので、物語を進める役として今後も要所要所に登場して存在感を示してほしいものだ。

単行本の構成としてはどうにもならなかったとは思うのだが、連載前の読みきりは二本とも掲載した方が、本編の通りもよかっただろうとは思う。こればっかりはしょうがないとは思うのだけど。
「切断王」衣音のテーマとしては「父の観た世界をどうすれば観れるのか」というのがあると思う。それが、読みきり二本を通して読んだ方が、より明確になったと思うのだ。

この巻だけでも面白いが、長く続いてこそ世界設定などが明らかになって面白さが増していくタイプの作品だと思うので、ぜひとも続編が読みたいところだ。

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【宣伝】・「ダ・ヴィンチ6月号で『進撃の巨人』特集」

発売中のダ・ヴィンチ6月号において、「進撃の巨人」について「震災後どう読むか」とキャラクター解説などについて書かせていただいております。
作者の震災後の心境をまじえたインタビューも入っているので(インタビュアーは別の方です)、お得です。よろしければぜひ読んでください。

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