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・「どげせん」(1) 板垣恵介&RIN(2007、日本文芸社)

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四十代のくたびれた中年男・瀬戸発(せと・はじめ)。彼は決してケンカが強いわけではないのに、あらゆるトラブルを解決してしまう。
「土下座」によって!

……という、史上初の「土下座マンガ」が本作である。

・その1
もちろん、本作の第1話は「やくざに対する土下座」から始まる。
それは、本当は「やくざに土下座なんか通用しない」ということが、読者にはわかっているからである。
最初にイメージとしての「最強」と戦う……。
これは、ある時期までの異種・総合格闘技マンガの主人公が、最初に対戦するのが空手家であることと似ている(「グラップラー刃牙」や、ポストモダン的な総合格闘マンガ「オールラウンダー廻」に至るまで)。

あるいはまた、本作は「人間が土下座する状況とはどんなときか?」という考察でもある。
だれでも土下座なんてしたくないに決まっているが、一方で一生に1回や2回、そんな機会が巡ってくることもあるだろう、と読者は思っている。
その心理をついた、見事な企画だと言えるだろう。

・その2
少し話をそらす。
私がものすごく個人的に気にしているのは、「やくざも含めた裏社会のリアルな悪」を描いた作品が現状、もてはやされていること(いつの時代にもそういうものは、あることはあるのだが)。
「ナニワ金融道」以降、ほとんど定着したと言える「借金取り」やそれに類する「リアルな裏社会を題材としたマンガ」に関し、「任侠ものの退廃として」という観点から観ていくと、悲しいことになるのだ。

もともと、「任侠映画」は様式美の世界であり、「任侠道」が貫徹されるかされないかが、お話のキモであった。
鶴田浩二や高倉健の、オールドスクールな任侠映画の多くが「地元に根をはる良心的なやくざVS新興勢力としての経済やくざ」という図式に乗っ取っているのは、(フィクションの)新興やくざが「任侠道」からはずれようとしている、というテーマを描くためだった。
(もっと掘り下げていけば、「古き良き日本VS富国強兵策のために古さを捨てた日本」という対立構造が出てくる。)

この単純な図式を壊そうとしたのが、東映の「実録路線」であることは言うまでもない。
そもそも、「実録路線」で盛んに題材にされる山口組は、地元だけでなく他地域に新興する、旧来の任侠映画では「敵役」なのだから、その表面的な変化は大きかったと観るべきだろう。
しかし、「実録路線」が描こうとしたのは、様式美を捨てた当時の「リアルさ」ではあるが、「仁義なき戦い」の菅原文太が「仁義なき状況」を憂える存在であるように、テーマが大きく変わったわけではない。

また、「実録路線」で描かれるのはほとんどが「抗争」であり、実際どうやってやくざが「シノギ」を行っているかに関しては、抗争の背景に後退し、また描き方も類型的である。
(「どげせん」と同じ雑誌で連載しているやくざマンガ「白竜」が、「シノギ」をフィクショナルではあれきちんと描いているのは、むしろめずらしいことである)。

ところが、「借金の取り立て」というのはむしろ「シノギとはいかなるものか」を詳細に描くことをテーマにしている。いわゆる闇金が全員やくざなのかどうか不勉強にして知らないが、闇金を描くことイコール、いかに「エゲツないシノギ」を描くか合戦になったことは、否定できないだろう。

ましてや長期的な不況である。こういうことを書くとたぶん笑われると思うが、私は「借金取りマンガ」がジャンルとして定着したことは、庶民のモラルハザードの表れだと思っている。
任侠ものにおいて「弱い存在」としてしか描かれなかった「カタギ」が、「借金を踏み倒すこともあるエゲツない存在」として描かれた、そのリアリティがなぜ受け手に必要だったのか、ということが、本当は問われるはずなのだ。

・その3
さて、話を戻す。
そんな状況下にドロップされたのが本作「どげせん」であることをふまえると、製作者陣営は「笑うしかないくらい悲惨な状況」をどうやってファンタジーとして昇華させるか、に腐心しているのではないかと思えてくる。
同じ板垣恵介の他の格闘技マンガのように、おそらく腕力のみで決着がつくトラブルなど、日常にはほとんどない。
それよりはまだ、通用するかどうかはともかく「土下座」の方がリアル、日常的である。そしてその、日常の再底辺の状況をどうファンタジーにするか、という問い……それこそが本作のキモである、と自分は思う。

なお、本作は言いかえれば「物語内におけるハッタリと読者に対するハッタリ」という二重のハッタリマンガだと言うことができ、それはそのまま板垣恵介の作風のセルフパロディとなっていることにも注目することができるのだが(本作を「ギャグマンガ」だと断じる観点があるのはそのためだろう)、長くなりすぎたので割愛する。

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