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【創作・小説】・「死刑囚ハラスメント」

ぼくは死刑判決を受けた。
理由はいろいろあるが、複雑なのでここでは説明しない。

新死刑制度が始まって20年、死刑囚には看守などよりずっと親身になってくれる「死刑囚キーパー」なる存在がつくことになった。
表面上は、死刑囚の生活や心のケアが彼らの仕事である。

ぼくには、タザキという二十代後半くらいの年齢の男性キーパーが付いた(当然、男性の死刑囚には男性のキーパーが付く)。

さて、ここからは都市伝説である。
新死刑制度では、この「死刑囚キーパー」の存在そのものが、死刑囚を苦しめる最大の要素なのだと、死刑制度を興味本位で扱うコンビニ雑誌などには書かれているのだ。

しかし、死刑囚は最後にはけっきょく娑婆には戻れず死んでしまうのだから、「死刑囚キーパー」が本当にそんな役割をしているかどうかはだれにもわからないはずなのだが……。

それに、死刑囚キーパーは死刑囚との相性がどうしても合わない場合、死刑囚側から変えることも可能だ。
したがって、故意に意地悪をしようとしてもそこには限界がある、はずだ。

タザキは、二十代後半だがけっこう若く見える男だ。やがて死刑を迎えるぼくを、ずいぶんとケアしてくれたと思う。
しかし、同時にぼくは、だんだんと例の「都市伝説」を信じるようになっていった。

タザキは、「死」とか「死刑」に関する冗談を良く飛ばすのだ。

それに、なぜかぼくが知ることはないであろう、二十年くらい先の時代の話をよくした。

そして、思い出したように「あっ、きみには確かめることはできないかもしれないね」なんて言うのだ。

ぼくの一日は、ヒマである。
なので、タザキが言ったことがぼくと親しくなったがゆえの、少々タブーに触れた冗談なのか、
それとも本当にぼくを苦しめようとしているのかを、独房でずっと考えている。

面と向かって、
「やめてくれないかな、冗談きつすぎるだろ」
と言ったこともある。
するとタザキはすぐに「ごめんごめん!」とあやまった。
「きみと一緒にいると、きみが死刑囚だなんて一瞬、忘れちゃうんだよ」

そしてまた、一日中独房で考える。
「本当か? やつの親しさは本当か?」と。

ある日、
差し入れのコンビニ雑誌をながめていると、
また「死刑囚キーパーは死刑囚いじめ!?」
というまことしやかな記事が載っていた。

陰謀論者いわく、死刑囚キーパーは、死刑囚に死の恐怖や自分の孤独をわからせるために存在しているのだと。
そのため、心理学や演技、コミュニケーション学などを学んだエキスパートがこの職につくのだと。

死刑囚キーパーは、別に死刑囚の友人でもなんでもない。実はかなりのところ、死刑囚の生活に関する決定権を握っている。
だから、ぼくがタザキに「おまえ、おれのこと馬鹿にしてないか?」と過剰にすごんで見せたり、暴力をふるったりすればたちまちぼくの立場は悪くなる。
ヘタをすれば、死刑執行の期日が早まってしまうかもしれない。

ぼくができることと言えば、キーパーを別のだれかに変更してもらうように申請することだが、それにしてもきちんとした正当な理由が必要になる。
ぼくは、看守などにはタザキと非常にうまくやれていると思われていた。

この状況でタザキを別人に変えたとしても、もっと変なひどいやつが来るかもしれないリスクを考えると、なかなかキーパーの変更を言い出すことができなかった。

あいかわらず、タザキは一日一回、さわやかな笑顔で面会に来る。
1時間くらい、生活に不自由はないかとか、いろいろと雑談をする。
そしてタザキはその中に、必ず笑えぬ「死刑囚ギャグ」、あるいは「もしかして、これおれのこと馬鹿にしてないか?」というような言動を入れてくるのである。

それが精神的苦痛、とまではいかないギリギリのラインなのだ。

また一日中考える。おれは果たしてタザキと会うことで、「苦痛」を感じているのか? と。

そうだとも言えるし、そうでないとも言える。

またタザキが面会に来た。
それは、ぼくのところに彼が面会に来た最後の日となった。

彼が独房に入ってきたとき目に入ったのは、彼の着ていたシャツに描かれていた、図案化された、
「ロープで首をくくられている人」
だった。

ぼくはそれを観た瞬間、タザキの悪意を確認し、元プロボクサーとしてのパンチを腹に一発めり込ませた。
タザキは恐ろしく醜悪な、ずる賢い顔になった。
まるで昔観た悪魔憑きの映画に出てくるような顔だった。

悪意がバレた人間の顔だった。

ぼくは、現役時代よりもあらゆるボクシングの技を使い、タザキをサンドバッグのように滅多打ちにした。
もちろん、簡単には倒れないように壁に押し付けて、器用に殴った。

あとからよく観たら、
「ロープで首をくくられている人」
は、
「水中から釣り人に釣りあげられようとしている魚」
を、マンガチックにユーモラスに描いたイラストだった。

ぼくが見間違えたのだ。

でも、ぼくが攻撃したとき、彼の顔が「ばれたか!」とでもいうような醜悪な顔になったのは、事実である。

ぼくしか観てないが、本当だ。

タザキは、死んだ。

ぼくはその後、三人の死刑囚キーパーを撲殺した(死刑囚キーパーそのものを拒否する権利は、実は死刑囚にはないのだ)。

ぼくは夢想する。
「死刑囚キーパー」たちが「研修会」で、いかに死刑囚の神経を逆なでするかをときには真剣に、ときにはブラックなジョークをまじえて話し合っているところを。
ときどき、ドッと笑い声が起こる。

もちろん、ぜんぶぼくの妄想だ。

だが、なかばそういう光景が実際にあることを、確信してもいるのだ。

今日は、ぼくが処刑される日だ。
別れを惜しんでくれるキーパーは、当然いない。
(完)

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