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【小説】・「去年はいい年になるだろう」 山本弘(2010、PHP研究所)

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2001年9月11日、24世紀の世界から突如「ガーディアン」と名乗るアンドロイドたちがやってくる。彼らは圧倒的な科学力によって、世界同時多発テロを未然に防ぎ、世界の軍事基地、兵器をあっとう間に無効化する。
彼らの目的は「人類を不幸な出来事から救うこと」であった。
主人公・山本弘(作者本人)の視点から観た、「純粋な善意による歴史改変」の結末は……?


作者の2001年9月から数年間の、実際の社会状況や交流のある人々が、「ガーディアン」によってどのように変化していくのか? ということを描いている。このため、実在の人物が多数登場する(実は私もほんのちょっとだけ出てくる(笑))。
そういう点から、ちょっとパロディというかお遊び的な設定であるにも関わらず、読後感はかなり重い(いちおう、ハッピーエンドではあると思うが)。

それは、作者の気持ちがかなり赤裸々に書いてあるからで、社会状況の変化をそうとう真剣にシミュレーションしていると同時に、自分自身の周囲の状況や心境も誠実にシミュレーションしているからだろう。
「未来の自分から送られてきた、未来の自分が書いた小説」を、「本当に自分が書いたものではない」と悩む、なんていうのは架空の苦悩でしかないとは思うんだけど、それがまるで本当にあり得ることのように感じてしまう。

美少女アンドロイドとの浮気ごっこを楽しんで、その後後悔したりというのも、あり得ない話ではあるのだがやはり読んでいて切実な問題として感じてきてしまう。

本作では作者は単なる傍観者では決してなく、むしろ大きな歴史改変によって、非常に個人的な問題に対して苦悩する存在なのだ。

よく、山本弘氏の小説を「教条主義的だから」と言う人がいるが、すべての作品を読んだわけではないけれど本作に関しては決してそんなことはないと思う。

本書のテーマのひとつは「善意によって何かをなそうとするとはどういうことなのか」だ。

広義のサブカルに接していると、「人間とはずるがしこいものだ」、「人間とは自分勝手なものだ」、「人間とは欲望に忠実に生きるものだ」というのがテーマや裏テーマになっているものが実はほとんどだ。
それは、ふだん生活している中で、空虚な理想論がふりかざされているからではあるのだが。

しかし一方で、人間というのは他人のことを考えたいし、理想にも燃えたいし、善意で人に何かをしてやりたい、と思う存在でもある。
そのこと自体が、人間の業なのだ。実は。

それは、本作でアンドロイドのガーディアンが「人間のためになることをするのが本能」で、それだけは直すことができない、というところに現われていると思う。
本作ではアンドロイドは人間とはまったく異質の存在として描かれており、安易な人間のカリカチュアではない。そのことは強調しておくが、それでもなお、ガーディアンは人間がつくった存在で、また未来の人間がそのあり方を認めた存在でもあるのだ。

「人間とアンドロイドのディスコミュニケーション」ということに関しては、本作の私小説的なパートと見事にリンクしているので唸ってしまった。
いや本当に、架空の存在が投げ込まれているのに「そういうことって、あるよなあ」としみじみ思ってしまうのだった。

なお、タイムトラベルによるパラドックスに関しても、なるほどと思った。ああ、そこまでは考えてなかった! と思いましたよ。

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