・「ヤマタイカ」全6巻 星野之宣(1987~1991、潮出版社)
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沖縄と邪馬台国が結びつき、アマテラスと同一化される。それらは弥生文化に常に抑圧されてきた縄文文化の怨念として、巨大な銅鐸をヴィジュアル・イメージとして作中で蘇る。
作中の学者の提唱した「火の民族仮説」を実証するごとく、「火山」と、そして「踊狂現象」とが結びつき、言わば「ラテン系民族としての日本人像」に結実する。
「従順で、勤勉で、おとなしい」日本人像が、火山の噴火と文字どおり「踊り狂う」人々によって塗り替えられる。彼らを守護するのは、海底から浮上した、霊的パワーをまとった戦艦大和である。
……あらすじを読んで「何を言っているのか」と思う人もいるかもしれないが、実際にそういう話なのである。
・その1
なんでこんな素っ頓狂な話になってしまったかというと、おそらく作者の中で古代史に関する「仮説」があり、それをエンターテインメントに仕上げていくにあたって、結果的にエスカレートしてしまったのだと思う。
だから、本作のテーマ性についてあまり真剣に考えても仕方のないところはある。
しかし、やっぱりどう考えたって本作は「縄文VS弥生」とか「被支配者VS支配者」とか「混沌VS秩序」という二項対立が軸になっていることは否定できない。その対立が作品内で意識化されていないかぎり、そもそも本作のお話を転がしていく原動力も生まれない。
そして、80年代後半から90年代初頭に描かれた本作の根底にあるのは、(2010年の現在から後出しジャンケンで語るとすれば)戦後50年を経てますます秩序だっていく状況に対する「デカい一発が来ないかな」という感覚だろう。
・その2
ちょうど本作の連載時期はバブル期と重なっていて、その経済的な狂騒状態に作家的感性のある人たちは「戦後50年の総括」を考えていた。
経済大国日本の未曾有の繁栄、それがくすぐったく、すごすぎるがゆえに不安に感じられ、もしかしてまた50年前と似たようなことが起きて日本は焦土と化してしまうのではないか……。いやむしろ、勝ち組的罪悪感から焦土と化すべきなのではないか……。そんな雰囲気が、少なくとも多少知的な人たちには蔓延していた頃だった。
だから本作は、「ハルマゲドン」という言葉は一つも出てこないがハルマゲドン・ストーリーである。それは当時の雰囲気としては何ら珍しいものではない。
が、ただ一つ本作が他のハルマゲドンものとは違う特異な位置を占めている、と私が感じる点がある。
それは、「ハルマゲドン的な」、「デカい一発が起こって」、「人々が狂騒状態になる」ことを、実に肯定的にとらえているところだ。
むろん、このあたりには賛否両論あるだろう。クライマックスでは東京に数百万の人間が集結して踊り狂い騒ぐのだが、そのような混乱によって暴行や略奪や、あるいは予期せぬ事故などで死者が出たとはひとつも書いていないからだ。
ラストでは、「卑弥呼」によって起こった狂騒から数年後、なぜかベビーブームが起こったことが能天気に語られさえする。
・その3
そこでたいていの評者は、「思考実験の結果だから、結末のバカバカしさ、荒唐無稽さはその結果にすぎない」とごまかしてしまうのだが、果たしてそれで済ませていいのだろうか?
やはり、本作の存在は「理路整然とし続ける当時の日本に対して、一度ぶっ壊れねえかなあ」という期待と不安が、当時の読者にはあったことの証明なのではないだろうか。
そして、さらにそうした感覚を「古代史」という「ずっと昔のこと」を隠れみのにして、堂々と肯定的に描いてしまった作品なのではないだろうか?
どうしても、そうした深読みへの誘惑を断ち切れない。
本作の最終巻が刊行されて数年後の93年、鶴見済の「完全自殺マニュアル」が出る。
この当時、鶴見は「もうデカい一発は来ない」と言った。すでに90年代前半には、本作のような物語にはリアリティがなくなっていたのだ。
そして95年にはオウムが「ハルマゲドン」を実行しようとしてサリン事件を引き起こす。
あるいは、「狂踊」という観点から言えば、91年には「ジュリアナ東京」が開店、あるいはそれと比較してのアングラな領域では電気グルーヴがデビュー。
要するに、本作終了と入れ替わるように、まさに「踊り狂うことを目的とする」クラブ文化が徐々に盛り上がっていくのである(ちなみに、テクノ雑誌のELEKING創刊が95年)。
そういう意味では、古代史を扱っていながら本作は非常に刊行当時の「現在」、あるいは「未来」をテーマとして扱っていたことになる。
繰り返し書くが、本作のやや投げっぱなしな結末は「仮説をマンガ化する」という方法論からあくまで結果的に出てきたにすぎない可能性の方が高い。
しかし、本作を「90年代初頭の作品」として読み解く必要性は、今でもじゅうぶんに残っていると思う。
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