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【アニメ映画】・「宇宙戦艦ヤマト 復活編」

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企画・原作・製作総指揮・監督:西崎義展
原案:石原慎太郎
脚本:石原武龍、冨岡淳広、西崎義展

「宇宙戦艦ヤマト」が、惑星アクエリアスのなんちゃらかんちゃら(もう忘れてたよ)でなんちゃらして17年くらい。
「移動性ブラックホール」が太陽系に接近し、地球を飲み込みこんでしまうことが発覚する。
人類は、その後何年かかったか忘れたがとにかくあらゆる回避策を考えた。「地球の軌道を一時的にずらす」ことすら検討したという。そして、最終的に地球を捨てて2万7000光年離れた惑星アマールの月へ移民するしかないと結論を下す。

しかし、移民船団はいずれも国籍(?)不明の敵からの攻撃を受けて消息不明に。ちなみに、第1次移民船団に搭乗していた古代進の妻、雪も行方不明になってしまった。
その後いろいろあって、当然だがヤマトは甦り、第3次移民船団の護衛艦隊旗艦となる。
辺境惑星で貨物船の艦長か何かをやっていた古代進は真田さんのススメで新生ヤマトに搭乗、移民船団を率いて地球から旅立つ……。

まず前提として。
展開がタルい。
それだけは最初に言っておきたい。これは「ヤマトだから」、「西崎義展だから」、「石原慎太郎だから」という問題ではないだろう。また、展開の重要部分を人々のセリフや話し合いだけで進めようとしていたのにも閉口した。

以下に書くのは、それを大前提とした上での話である。
なお、盛大にネタバレをしているので注意ね。

その1
2秒くらいネットで調べたのだが、90年代から本作の企画はあったようだ。
ただ2秒調べただけでは、各スタッフがどのように関わったのかがよくわからない。なにしろ、スタッフロールには国友やすゆきの名前まであるのだ。
面倒くさいので、「ヤマトをつくった総意」が今回のヤマトをつくったというトートロジーで行かせてもらう。

で、正直若いアニメファンは観ていられないと思う。バカバカしくて、観ていられないと思うのだ。
今回、最大の敵となる「SUS国」は、どう考えてもUSAであり、しかも宇宙人なのになんで「SUS」ってアルファベット使ってんだよ!? と思ったが最後、物語には入っていけなくなってしまう。

そしてそこを突破した後も、「惑星アマール」が中東の産油国のメタファーであることも自明……だよね? BGMがモロそんな感じだし、SUS国のエネルギーを供給しているという関係性もアメリカと中東のソレだろう。

そもそも、人類、人類と言っているがヤマトの搭乗員は全員日本人なのだ。正直、観ていて驚いてしまった。
それは本作のアナクロニズムにではない。小学生の頃、「宇宙戦艦ヤマト」というアニメを観ていて、搭乗員に日本人しかいないことにも、女性乗組員が森雪しかいないことにも、自分はまったく違和感を抱いていなかった、ということにだ。

「ヤマト」の数年後にはファーストガンダムがあって、こちらではすでに人種が混交している。主人公のアムロが純粋日本人じゃないことに、少々違和感を感じたりしていた。
80年代に入ってからも宇宙戦艦ヤマトの新作が公開されていたことを考えると、その頃は「全人類を巻き込むような話で日本人しか出てこなくても、とくに違和感はない」時代だったのだ。

その2
話を本作に戻そう。
とにかく、地球人類とアマールが共同でSUS国と戦うという構図は、製作者サイドのアジア圏共同意識と反米感情の産物であることは明確であるように思う。これを許せるか許せないかで、まず本作をボロカスに言うか言わないかが決まるかもしれない。
若い世代は、もろもろのアナクロな設定には耐えられないだろうし、安い仮想戦記的な展開にも耐えられないだろう。

ただし、「ヤマト」は、もともと「そういう物語」であったはずなのだ。
日本の軍艦「戦艦大和」を人類救済の宇宙船として、ナチスがモデルのガミラス帝国と戦わせ、「原爆」の象徴である「遊星爆弾」によって放射能に犯された地球を救済する……。
そうした図式は、日本人の誇りの象徴としての大和の鎮魂と、唯一の被爆国であることへの鎮魂と、ナチスドイツに協力したことへの「仮想的なみそぎ」だったはず。
そうした「仮想世界で心のひっかかりを解いていく」という作業は、本作においてもブレがないことも事実である。ただし、30年前は「アリ」だったことが、ことごとく現在では「ナシ」になってしまっているのだ。

別の言い方をすれば、一作目の「ヤマト」には若者が大いに共感できる何かがあった。今回の「復活編」には、若者を巻き込むなにがしかはまったくない。
逆に言えば、「中年以上の溜飲を下げる映画」としての機能を目指した、ということはできるかもしれない。

その3
まあ何にしろ、本作の意義を読み取ることは「70年代中盤とはどういう時代だったのか」を考える証左にはなる。
映画秘宝的な映画の読み解きが好きだったら、本作もそのような観点で読み解くように努力してみると面白いと思うよ。と、若い世代に告げておく。
たぶん、ほとんどの人がそんな気は起こさないだろうけど、いちおう問題提議だけはしておくよ。

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