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・「九頭竜」(上)(下) 石ノ森章太郎(2009、小池書院)

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1974年頃、ビッグコミック連載。
富山の薬売り・九頭竜は、殺された母親の謎を追いながら旅をする。彼の仕事は売薬だが、厄を買う……買厄も扱う。すなわち、行く先々でトラブルとなっている者を依頼によって殺す、殺し屋としての顔をも持っている。
物語は九頭竜の「買厄人」としての顔を1話完結で、殺された母親の謎解明のための唯一の手がかり「九頭竜の彫り物」をめぐる話を、連続した物語として見せていく。

この頃の石森章太郎の絵柄は、ずいぶん劇画に接近していて、女性についても単なる美少女というよりは生活人としてのなまなましさ、泥臭さを意識的に描くようにしているようだ。
とにかく1話完結の個々のエピソードが弱いのが難で、それは石森作品全般に言える。それが現状での評価がいまひとつ高くない原因のひとつだと思うが、コマ割りや読者があまり知らない薬売りの風習などを巧みに描くことによって、プロットの弱さを十分にカバーしている。現在でも読むに十分値する作品だと思う。

本作では物語中盤で、九頭竜の追う謎の背景には、数千年前に大陸からわたってきた二大勢力の戦いがあり、この二つの勢力の争いが日本の表向きの権力争いの裏にあったということになっている。
これは他の石森作品にもときおり観られる、宇宙考古学を背景にした陰謀論的ハルマゲドン・ストーリーの変奏と言っていいだろう。

だが面白いことに、陰謀論を描きながらその具体的な存在は何も描かれない。かといって形式的に単なるおはなしづくりのために、そうした設定を採用しているとも思えない。
「サイボーグ009」に顕著だが、石森にとって戦士とは、純化された、半永久的に続く「戦い」の中で自らも半永久的に戦う者のことを言うらしいのである。

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