たまたま、何かの飲み会の流れでこじゃれたバーに行くことになった
ふだんならぜったい足を踏み入れないような店だった
連れてきてくれた人が言うには、多くのミュージシャンやデザイナーなどが出入りしている店だという
自分は そのとき泥酔していた
私を連れてきた人が常連ヅラして 私の知らないだれかとゲラゲラ笑いながら話をしている最中
ふと奥の方に目をやると 一人の男のすがたが目に入った
「○△×○□」
そこそこ有名なミュージシャンが 酒を飲んでいた
どれくらい「そこそこ」かというと
「おれってちょっとマニアックな趣味なんだよね」って
主張するようなやつが たいてい聞いているくらいそこそこ
私はこのミュージシャンの×××××という曲が大好きだった
何かのドラマのエンディングテーマだった
そのドラマをほとんど観たことないのに その曲のCDは買った
毎日聞いていた その曲は毎日 どん底の自分をはげましてくれた
その曲の歌詞を 自分は一時期 脳内で反芻した
自分に勇気をあたえてくれた曲だった
「ファンなんです!! あの曲は最高ですね!!」
隅っこの方で 一人で飲んでいた○△×○□に私は話しかけた
ふだんはそんなことはなしない(できない)
泥酔していたからだ 酒の力ですね
私はつい 自分の境遇とその歌詞との類似点についてまくしたててしまった
○△×○□は黙って聞いていたが 口を開くとこう言った
「どうもありがとう。でも、そういう解釈は考えたことなかったな。
っていうか、そういう解釈だけはないと思う。悪いけど、それはぜったいにないなぁ」
私も だまって聞いていた
「そもそも、そういう境遇自体が考えられないっていうか……
へー、そういう人もいるんだみたいな? なんかちょっと新鮮です。そういう人もいるんだね。
考えたこともなかった。いや今でもちょっと信じられない。」
「だって、普通そういうときって××するでしょ? それを△△だなんて……
おれは高校のときから○×だったから。よく後輩とか呼び出して××していたタイプだから……
そういうおたく的? オタッキー的っていうの? よくわからない。
ごめん、おれ今酔ってるかな。ゴメンね。でもキミの解釈だけはない。
キミがどう解釈しても、いったんリリースされたものだから自由だけど、
少なくとも私の中には それはない。」
私は礼を言って、これからもがんばってくださいと言って、その場をはなれた。
翌日は日曜日だった。
私は昼過ぎに起きてから、彼のCDをぜんぶブックオフに売りに行き、
「流行おくれで引き取れない」と言われたものに関しては、
処分してもらうように頼んだ。
パソコンからも消去した。
小泉元総理、イチロー、宇宙飛行士の若田さん、オバマ大統領、朝青龍、そのほかの方々。
あなたたちは、自分のためにがんばってるんですね。私のためではなく。
よくわかりました。