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・「包丁人味平」 牛次郎、ビッグ錠((1974〜78、集英社)

週刊少年ジャンプ連載。
少年・青年マンガの定番企画のひとつとなった「料理対決もの」の元祖的作品。
が、単行本で読むのにずいぶん時間がかかってしまった。

詳細は以下に。

・その1
まず、味平の洋食コック修行から包丁塚での「包丁試し」、さらに熱田神宮境内での包丁貴族との「点心札勝負」までが、個人的に読んでいて非常に退屈だった。
だって、「料理そのもの」の勝負ではなく、包丁の使い方だとかなんとか、料理をつくる一工程の勝負なわけでしょ。
だから「美味そう、不味そう」という判断も読者としてはできないし。
チャーハンとかもちょこっとつくってましたが、なんだか出来上がった料理での勝負がつけ足しのような印象すらあった。

元祖的作品だから、料理対決マンガとしての「おとしどころ」が、まだこの段階では明確ではなかったのではないかと思う。

そして、やっと焼津の「荒磯勝負」で実際に焼き魚の勝負となるわけだが、とにかくこの段階でも味平は単なる「コック見習い」にすぎず、しかも仕込みがことごとく裏切られるという展開だから、単にいきあたりばったりの処置をしているようにしか見えなくなってしまう。
この「いきあたりばったり」に関しては、最終章である「ラーメン勝負」もそうなのだが、この頃にはフォーマットができあがっていたからかこの「荒磯勝負」ほどの違和感はない。

・その2
「荒磯勝負」まで読んで、どうしたものかな、これが現在でも「料理マンガ」の代表格としてあげられる作品なのだろうか……? と疑問を感じているうちに、それまでの展開とは考えられないほど面白くなるのが、カレー将軍・鼻田香作との「カレー戦争編」である。
よく、飲み屋などで味平ばなしになるとたいてい出てくる「ブラックカレー」はこの「カレー戦争編」のエピソードであるし、実質的に初めて「カレーという料理そのもの」が勝負の決め手になるのが、この「カレー戦争編」なのである。

いわば、「味平の」というだけでなく、後の少年・青年マンガの「料理対決」のフォーマットが確立されたのはこの章からだと言っていいだろう。

「味そのもの」を問題にしているほかにも、「カレー戦争編」にはいくつもの重要な要素がある。

まずは「大衆料理」を「味平のめざすもの」として明確に設定したこと。
それまでは、そこら辺がどうもハッキリしなかった。包丁貴族は金持ち向けに料理をつくっているやつだろうし、「荒磯料理」なんてどこで食えるのかよくわからない(庶民的な料理だとは思うが)。
この章で初めて「カレー」という、わかりやすい題材が出てきた。

また「小規模の店VS大資本」という図式も明確になった。
味平陣営はと言えば、仲間になるのは料理のプロではない佐吉というおっさん、暴走族の不良娘・梨花、屋台ラーメンの柳大吉。要するに不良娘とおっさんとブサイクが仲間だ。
対する「インド屋」は、経営者のマイク赤木こそ苦労人だがカレーの全国チェーン展開をもくろむ男である。
これに70年代当時のデパート戦争の思惑がからみ、「うまいカレーを出すデパートの方に客が来る」というふうに持っていったのが面白い。
ナントカ料理協会の会長だのの面倒な審査は、ここには存在しない。「うまいカレーが売れるカレー」なのだ。

次に、「いらん妨害工作がそれほどなくなった」ということがあげられる。
70年代前半くらいまで、少年マンガでも少女マンガでも対決モノにはイジメや妨害工作がつきもので、容易に思い浮かぶのはバレエマンガにおける「トゥシューズに画鋲を入れる」というシチュエーションだろう。
また、思わぬアクシデントでケガをしてしまう、というのもよく勝負の不確定要素として入り込んでいた。

たとえば「味平」の「荒磯勝負」における、「味平は魚アレルギー」という設定は、「どんな美味そうな料理を見せてくれるか」という読者の興味には関係がない。
はっきり言ってあってもなくてもいいものにすぎない。少なくとも私にとっては。

対決もののマンガにおいて、ガチの勝負以外の要素、すなわちイジメ、いやがらせ、思わぬケガ、あるいはまた肉親の病気などは、うまく盛り込んでいかないと単なる展開の引き伸ばしや、「真っ向勝負」という読者の興味をそぐことになる。
実際、80年代以降の少年・青年マンガにおいて……とくに少年ジャンプは「努力・友情・勝利」をスローガンにしていたためか、「敵役が汚い工作をする」というパターンは大幅に減ったように思える(「キン肉マン」では多少そのような傾向が見られるが、展開は引き伸ばされずコンパクトになっているし、最終的に汚いことをやった超人は負けてしまったりと、因果応報がハッキリしている)。

その先駆けとして読み取れるのだ。

第三に、ライバルとしてのカレー将軍・鼻田香作のすばらしさをあげておこうか。
鼻田香作は、イヤミではあるが異様なまでに勝負にこだわるストイックな男として造形され、結果的にそれがゆえに破滅することになる。
「味平」には、それ以前にも個性的なキャラクターや突飛な技が登場してきてはいたが、それは「料理対決」に集約されるものではなかった気がする。
たとえば肉を解体するために火薬を仕込む「地雷包丁」など、技としては面白いが作中ではあくまでも「邪道」として扱われている。

このように「カレー戦争編」は、味平の中でも特筆すべき、奇跡のエピソードになっていると感じる。

・その3
最後に、札幌の「日本ラーメン祭り」に味平が飛び入り参加する「ラーメン編」になる。
ここでは、まだ「仕込み中の鍋に敵が妨害工作として塩を入れる」ということをやったり、またそういう人間がほとんど糾弾されないなど、旧来のテイストが残ってはいる。
が、ラーメンに関してはズブの素人である味平が、洋食修行の知識を生かしてベテランラーメン屋を打ち破っていく……という展開もまた、後の料理対決ものの基本フォーマットとなっている。

最終的に、一流料理人の父のもとに帰った味平は、おのれの未熟さを自覚し、豪華客船のコックとして旅立つ……という結末になっているが、これはまあ結末らしい結末を付けるためのつじつま合わせの感が強い。
(アストロ球団が最後にアフリカに行くようなものか)

料理対決ものは、実は「手練の技VS思いつき」、「伝統の踏襲VS新しいアイディア」という永遠のテーマがある。これはそのまま、少なくともある時期までのマンガそのものに当てはまったのではないか。
70年代~80年代のマンガには、おそらく、少なくとも他の業界よりは面倒なしきたりや、「こうでなければならない」という要素はなかったはずである。
しかも、本作の連載は少年ジャンプ。新人育成に力を入れて、その先進性でのしてきた雑誌だ。

当時のジャンプそのものに、新人が一発逆転するという夢があった。
ちょうど、それを最大限に発揮する黄金パターンであるところの「山田風太郎忍法帖的チーム戦」や天下一武道会のようなトーナメントが確立される前の、過渡期の雰囲気が本作にはかいまみえる、ような気がするのである。

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