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【ポエム】草食系肉食系豚足

(以下は東京でOLをやっている松山聖子の一人称です。)

「欠員が出来たから急遽合コンに出てくれ」と携帯にメールが入ったのが午後6時。
あいかわらず強引だとは思ったが、ゲベ子には8万円も借りているので断るわけにはいかない。
いや、理をとけば断ることもできるのだろうが、回りまわって後になんて言われるかわからない。

仕方なく、出かけることにした。
ゲベ子は私・松山聖子の中学時代からの友人で、「合コン指南術」という新書サイズの本を出して近頃調子に乗っている駆け出しライターだ。
ときどき、あきらかに初老の域に達しているのにキャップをハスにかぶり、お尻の下がったジーパンを着ている年齢不詳の男と腕を組んで歩いているところを見かける。
パトロンらしいが、詳細はわからない。

ゲベ子はプライドが高く、上昇志向はあるが地道に努力するということができない女だ。

高校時代からテストの勉強なんてしたことがなかったので、よくノートを貸してやった。
容姿は並以上で、女子大に入ってからは(私から見たら)イメージとしてのバブル期みたいな遊び方をしていた。
彼女のファッションセンスについては私にはよくわからないが、とにかく派手で遠目では毒キノコにしか見えない。しかも緑を基調とした毒キノコだ。

しかし、男にはモテた。

ゲベ子は、どんなに自分が精神的に弱っていても決してそのことは言わず、失敗しても失敗を認めたがらない子だ。
それが私には不憫だったことが、今でもゲベ子と付き合いを続けている理由のひとつだったのだが、この点に関しては現在失敗したと思っている。
人にもよるが、ゲベ子の場合、自分の心の中でも弱さや失敗を認めていないということが、ある時期からわかったからだ。

内面凹んでいて、カラ元気を出しているのではない。本当に、自分でも認めていないのだ。

たとえば、できもしない分量の仕事を引き受けて失敗し、「頼んだ方が悪い」と言ってみたり、
友人の信頼を失って絶縁状をつきつけられても、「あの子が嫌いだからわざとそういうふうにふるまったのだ」と言ったりする。
かなり本気で。

そんなめんどくさい彼女に8万円も借りっぱなしになっているのは、私自身が「口からこんにゃくゼリーがとめどなく出る病」にかかってしまったからである。

「口からこんにゃくゼリーがとめどなく出る病」は、保険がきかないのだ。

私は合コンの場所である居酒屋に向かった。

が、入り口で追い返された。
この店は「口からこんにゃくゼリーがとめどなく出る病」の人お断りの店だったのだ。

ゲベ子は、私を入り口で迎え入れようとして店員に止められ、
「人権侵害じゃないですか!!」
と叫んだ。その言葉は「バカヤロー」とか「ふざけんな」といった罵声程度の重みしかなかった。
ゲベ子にとっては、合コンに欠員が出ることの方が問題で、私の「口からこんにゃくゼリーがとめどなく出る病」のことなどはどうでもいいことは明白であった。

私はゲベ子の傲慢ぶりが耐えられず、思わず彼女の右腕を店員ごしにつかんで引っ張った。

店員が「あっ」と言う間に、ゲベ子はゼリーとなって溶けて、消えた。

そう、私の「口からこんにゃくゼリーがとめどなく出る病」は次の段階、
「手が触れて念を込めると、すべてのものがこんにゃくゼリーになる」
能力に発展していたのだ。

その晩、X-メンから招待状が届いた。

私はX-メン入りを快諾し、8万円を前借した。
(完)

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