【映画】・「ドロップ」
いや品川は映画の才能あるでしょ。感心したよ。
お話の展開、個々のキャラクターの心情なども、最近の邦画のよくないやつにありがちな「なんでそこでそんな行動するの!?」とか「そこは違うだろ!?」とか、そういう部分もなく。
「公立なのに、主人公も含めて全校でヤンキーは5人しかいない」という設定も、本作の時代設定は不明だが今現在の「ヤンキー」を描く場合、リアリティはある。
まったくヤンキー臭のしない美少女(この映画では本仮屋ユイカ)に恋してしまうというのもヤンキーものの定番だし、ケンカのシーンは(私の数少ない映画鑑賞歴に照らしたかぎりでは)技術的なことはよくわからんが、エフェクトをかけていてなかなか面白い。
とにかく、他校の不良役であるレイザーラモンHGの肉体の迫力が圧倒的。もともとレスラーをやっている彼と、細身の成宮、水嶋とをそれほど違和感なく画面におさめているところも納得できる。
ただし、難を言うならば、物語をつくるに当たって「自分の暗部を見せてないんじゃないか?」と、どうしても思わせてしまう悪い意味でのソツのなさがある。
そこが、実に品川らしいというか……。
たとえば、実写版「キャシャーン」や北野武の「監督ばんざい!」は、けっこうどっしようもない映画だと思うんだけど、監督の「何か」がこもっていると思うんだよね。
松本人志の「大日本人」もそうだけど。
「ホームランか空振りか」で勝負しているあやうさがあるんだけれども、この「ドロップ」は、品川特有のアタマの良さでとても手堅くまとめちゃっている印象がある。
またそれが、テレビ出演時の品川の態度とオーバーラップするもんで、それが引っかかる人には乗れない映画かもしれない。
「主人公が現実世界とぶつかって、きちんと敗北して大人になっていくシーンがない」というふうに事前に聞かされていて、そこが気になっていた。が、実際観てみるとその辺はかなり議論の余地があるように感じる。
確かに、名作青春映画(たとえば「卒業」とか)にあるような真摯な痛みは本作では回避されているようには思える。どうも、「ヤンキー時代の思い出もすべてひっくるめてオトナになりたい」という虫の良さが、どこかに感じられるんだよね。
ただし、展開としてはある事件をきっかけとして、主人公・ヒロシが地元を離れていくシーンで終わっていくので、完全に「いつまで経ってもダラダラ不良やっていたい」っていう感じでもないんだな。
まあ、そのソツのなさが鼻につく、という無限ループでもあるんだけれども。
映画製作の現場のことはよくわからんし、品川がどの程度関わっているのかも不明だが、少なくともプロットと、「最後まで集中して観られる映画をつくった」という点は、もっと評価してもいいと思う。
今後、品川が面白い映画が取れるとしたら、それは「どこまで自分をさらけ出せるか」だろうね。
あ、そうそう、書き忘れていたのは作中のギャグに関して。
「漫才のメソッドを取り入れてしまっているから、映画のギャグとは違う」という批判を耳にしたんだけど、私はその言い方はちょっとないと思うよ。
むしろ、品川には漫才のフォーマットがいちばんなじみやすいものなわけだから、そこで勝負したのは良かったと思う。むろん、成宮クンと水嶋ヒロが「素人臭い漫才」をやっているようにしか見えない部分があるにはあったが……。
状況論として、外部の人間が入ってきて外部のやり方でやって、映画マニアが「それが気に食わない」って言って済むような邦画の現状か? って思えることが私の、この映画のギャグ擁護の理由のひとつ。
もうひとつの理由は、「イベント性」ということで言えば、品川庄司の漫才を多少知っている人間は、それが映画の合間あいまに展開されていることは「おまつり」として楽しめるわけですよ。
それを知らない人間が「つまんねェ」って斬って捨てるのはどうかと。
しかも、たとえばの話、タランティーノやエドガー・ライトが100人に一人くらいしかわからない「映画的教養」をふりかざすのは喜んで、品川が「漫才的教養」を盛り込むことに関しては「知らねェ」では、理屈として通らないんじゃないですか? という気持ちがすごくするんだよね。
まあ、やや絶望的予測を立てるならば、品川が今後、突出した映画を撮ることは彼の性格上、あるいは戦略上、たぶんないと思う。
でも、この手堅さや、手堅さの中の冒険心を否定することは、フェアではないと思うんだ。
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