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・「劇画漂流」(上)(下) 辰巳ヨシヒロ(2008、青林工藝舎)

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手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した作品。

「劇画」というジャンル名の提唱者である作者が、自分の少年時代から60年代初頭までの、マンガ・劇画との関わりを描いた自伝的作品である。

1950年代の劇画ムーヴメントの流れがおおまかに理解でき、なおかつマンガ家を志す青年たちの青春群像としても非常によくできているので、面白いからみんな読もう。

……と書きつつも、たぶん若い人は読もうとは思わないんではないかと絶望的な感情も浮かぶので、解説的なことを気ままに書いてみたい。

まず、本作は少年時代の作者と「上京する前の手塚」との出会いや、大阪を中心とした貸本劇画単行本の作家たちが何を考え、どのように生きたかを描いているという点で「もうひとつの『トキワ荘伝説』になっている点が重要である。

というのは、本書に出てくる貸本劇画シーンはほぼ大阪が中心で、東京にあったトキワ荘とは好対照をなしているからである。
今さっきウィキペディアで調べたが、トキワ荘系統のマンガ家はなぜか東北、北陸出身が何人もいて、上京してから貸本にも描いてはいたのだろうが基本的には月刊誌が主戦場だったように感じる。
つまり、本作では「トキワ荘伝説」と同時代でありながら、出身地も活躍の場(地域、媒体双方)も違うところでの、現在のマンガにつながるムーヴメントが描かれているというわけだ。

トキワ荘出身者の寺田ヒロオが、過激になっていゆくマンガ界に嫌気がさして筆を折ってしまうのは有名な話だが、そのような傾向に拍車をかけたのは「劇画」だった、とも言える。
そういう意味でも、本作はもうひとつのトキワ荘、もうひとつの「まんが道」なのだ。

さらに、ことは「マンガVS劇画」といった図式にはおさまらないところが一筋縄ではいかないところである。
すなわち、作者の辰巳ヨシヒロも、後に隆盛する「劇画」への違和感を表明することになるからだ。残念ながら本作ではそこまで描いていないが、若き日のさいとう・たかをとの劇画感の違いなどが考えるヒントにはなるだろう。

今では、「劇画」はマンガとほとんど同一視され、「マンガ」という多様化したジャンルに溶けていってしまった印象がある。

が、実は、リアルか荒唐無稽か、子供向けか大人向けか、商業主義かそうでないか、集団でのムーヴメントか個人の才能か、貸本か雑誌か、などの、マンガが50年代から70年代くらいまでかかえていた諸問題の中心には「劇画」ムーブメントが常にあったと言ってよく、なおかつ、「劇画」そのものも一枚岩ではないというやや複雑な状況がある。

そこには、「マンガ」の歴史の流れを把握する重要なとっかかりがあるのである。
それを無視してしまうと、少なくとも80年代までのマンガ史の流れが非常に把握しにくくなってしまうということがあるのだ。

というわけで、ぜひ一読をおすすめする。

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