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・「夜に蠢く」 (1)~(3) 柳沢きみお(2008~2009、グリーンアロー出版社)

Yoruni01
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たぶん週刊実話連載。以下続刊。
文房具の問屋に勤めるしがないサラリーマン、36歳は、赤ん坊が生まれたばかりだったが気分は高揚しない。
それよりも、今の常に追いつめられているような生活が一生続くことに耐え難さを感じている。

ある日、謎の男が現れる。ある大会社の社長が病死しそうだから、その代わりに社長になってくれないかというのだ。
社長が病死したら残された妻には何も残らない。このため、影武者を立てたいのだという。自分は、今の社長に瓜二つなのだ。
悩んだ末、大手出版社・紀尾出版の社長におさまった男の、贅沢だが偽りの生活が始まる……。

私は、もともと柳沢きみおという作家はあまり好きではなかった。
というか、正確には「ギャグ作品群から『翔んだカップル』への流れ」で、20年以上前に早々に見切ってしまったのだ。
今考えると、「翔んだカップル」という作品は当時の少年マンガ誌を考えるうえでも非常に興味深い作品ではあるのだが、高校生の私がそんなことを気にするはずもない。

その後、柳沢きみおは主に青年誌で、「中年以上の男の迷い」をエンターテインメントとして描く作家として長い間前線の作家として君臨していた。

いつの頃からかおかしな方向に行っているとは聞いていたが(「大市民」の途中あたりからか?)、「オヤジが適当なことを言っているんだろう」と思って気にも留めていなかった。

しかし、本作を読むと柳沢きみおというのはかなり不気味な存在なのだな、と思うようになった。
具体的に言うと、彼の描く中年男の出世欲、金銭欲、性欲は若い読者からみると滑稽なものでしかない。
だが、ある時期を境に急速に切実なものと受け取れてくるということだ。

それは、読者がトシを取ったということなんだけど。

中年男を、決して「若者の延長」として描かない、ということをたぶん最初にやったのがこの人なのだ(その後、中年男を扱った作品としては他の作家からも「最強伝説黒沢」みたいなド名作が出てくることになる)。

この「夜に蠢く」、ハッキリ言って絵は殴り書き、デッサンは狂っている、話もいきあたりばったりで、本当にヒドい。
(1巻、2巻では会社へ行く、一人夜の街で酒を飲む、愛人とセックスする、偽りの夫婦となった妻の風呂をのぞく、という無限ループがえんえんと続く。)

だが、フッと、ゾッとするようなミドル・クライシスの描写が顔を出すことがある。

逆に言えば、おそらく柳沢きみおというのはそれだけでもっている作家なのだろうと思う。ホワイトカラーのミドル・クライシスを、文学の領域ではなく描ける存在として、重宝されているということなのだろう。

とくに三巻目からはギリッギリ、狂気の世界の手前、酔っ払ったオヤジの妄想手前で踏みとどまっている。
(偶然一億円を手にした主人公が、その一億を本当にもらってしまおうかどうしようか、と悩むだけで何十ページも続く。)

さて、以下は、ときどき顔を出す柳沢きみおの情勢批判的な面について。
大半の読者は彼の社会批判を相手にもしていないだろう。だが、好むと好まざるとに関わらず、きみお世代ですら、バブルの恩恵を受けたことは自明だし、今の世の中をつくってきた功績が年長者にある。
それならば、またそれ以前の何かを破壊したのも年長者にあるということだから、ガチできみおの主張を若者が批判することも可能なはずである。

簡単に言えば「勝ち組、負け組言ってるアンタはじゅうぶん勝ち組じゃないか」という批判は成り立つんである。
まあ、そんなこと言ったって仕方ないかもしれないが……。

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