【映画】・「容疑者Xの献身」
ドラマ版では、「怪奇大作戦」テイストな、科学者しか知らない技術や新素材などを使った犯罪を頭脳明晰な「ガリレオ」こと湯川博が解き明かす、というカタルシスが強かったが、
劇場版の本作ではうって変わって序盤は地味な展開(だからこそ、冒頭のツカミで本編とは関係ない派手な爆発シーンが入ってます)。
元ホステスで弁当屋を営む花岡靖子(松雪泰子)がつきまとってくる元夫をやむなく殺してしまい、靖子を犯人にしないように、と隣人の高校の数学教師である石神哲哉(堤真一)が偽装工作を行う。
その偽装をどう見破るか、が今回のメイン。
石神は、外見はダサいおっさんだが湯川の大学時代の友人で、「天才と言えるのはヤツしかいない」と彼に言わせるほどの男。
原作を知らない私としては、明智と二十面相みたいな息詰まる対決になるのかと思ったら、序盤はいたって地味な展開で、テレビシリーズのように最初にデカい不可能状況が提示される、というものではない(このため、湯川先生が事件に関わるきっかけは「容疑者が美人だから」というドラマとは違う感じになっている)。
ところがこの「事件や偽装の地味さ」そのものが、後半の盛り上がりにつながっていく。
映画としては、はっきり言って「テレビドラマのスペシャル版」以上の意味は持たないとは思うが、プロットが非常によくできているので観ているものの価値観が物語終盤には逆転し、冒頭の印象や観客としての「推理の読み」はことごとくはずされ、ラストには映画の印象がまったく変わってしまう。
そして、それでいて「石神」という男のキャラクターにはブレがないのだ。感心してしまった。
通常、映画は最初の30分を観て面白くなければ、最後まで観ても面白くないことが多い。しかし、ミステリ(サスペンスではなく、ミステリ)というジャンルのみが、この定説をひっくり返すことができる。だからこの映画はそういう意味ではいびつだ。しかしそれが面白いのである。
堤真一は「地味で孤独でブサイクな中年数学教師」を見事に演じている。男前の堤が本当にブサイクに見えてくるところがすごい。
映画の宣伝番組をちょっと観たら、この役のために頭の前の方の髪の毛を少し刈っていた(ハゲっぽく見せていた)そうです。
松雪泰子も「幸薄い元ホステス、今は弁当屋」という役はぴったりだった。娘役の金澤美里という子も良かった。
逆に損をしたのが内海薫役の柴咲コウ。今回はプロットの性質上、からんでくる余地がまったくない。男性優位に描かれる警察社会で、何かとうざがられたりお茶くみをさせられたりという描写があるが、これが演出上何の意味もないんだよね。
まあ、正直「大画面で観るカタルシス」はほとんどないから、その意味では「映画にすることの意味」を問うのがなかなかにむずかしいが(努力はしていると思う)、プロット一発ですべてをひっくり返す痛快さがあるんですよ。
これぞミステリ映画、という感じでね。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 【映画】・「ブラックパンサー」ネタバレあり(2018.03.09)
- 【社会全般】・「童貞。をプロデュース問題」(2017.08.30)
- 【映画】・「パンツの穴」(1984年)(2017.01.30)
- 【アニメ映画】・「ルパン三世 ルパンVS複製人間」(2016.05.26)