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【映画】・「アイアンマン」

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監督:ジョン・ファヴロー

ただひたすらにポップコーンでも食べながら観ていればいい映画で、非常に面白かったがわざわざ感想を書くタグイのものではないかな、と思っていたのだが、
ネットウロウロしていたら「おいおい」と思った感想があったので書いておく。

原作は知らないけど、少なくとも一作目のトニー・スタークは単に目立ちたがり屋のエゴイストってだけではないでしょ。

まあ映画を観て感想なんか書いている人間の中には、世間の一般常識とかいわゆる「良識」を憎悪している人も少なくないと思うから、トニー・スタークを「大金持ちの不良中年」としてしかとらえたくない気持ちもわからんではない。
が、じゃあとことん偽悪的な人物かというと、そういうわけではないでしょう。

このブログでも何度か書いてるけど「ダークナイト」で、ジョーカーが観客にひいきされるのはわかるよ。
だけど、スーパーヒーローもので悪役が完全なる主役になっては、やっぱりいけないと思うし、「ダークナイト」ではギリギリのところでバットマンの存在価値を描いていた。
そもそも、「悪の魅力」をとことん描きたいんだったらピカレスク・ロマンにすればいいわけで、ヒーローなんか必要ないし、ヒーローものを描くならヒーローを立てるべき。

で、非常に明瞭な「スーパー・ヒーローもの」になっている「アイアンマン」さえ、そのような視点……悪役を立てるような視点で観る人がいる。今回、敵はやや類型的なので、誉め対象は品行方正なヒーローとは一風変わったトニーになってしまうわけだ。

だがしかし。どんな映画でもそうだが、ヒーローものというのはとくに、製作者の視点が「神の視点」として強く機能するジャンルだ。逆に言えば、そうでなければヒーローものではない。
どういうことかというと、「スーパーヒーローものとしてのおとしどころ」のカギを握っているのは、ヒーロー本人だけでなく、メタな製作者である場合も多い、と言うこと。

そして、本作にかぎっては、トニーは単細胞の愛国者というふうに描かれてはいる。
しかし、たとえばアフガンゲリラに捕らえられていたときのインセン教授との友情はしっかりと描かれている。
もっとも、その後の「変節」をやや軽めに描いているため、トニーに「ワル」でいてほしい観客はここを見過ごしてしまうのだろう。

オープニングからアフガンゲリラの捕虜になるまでと、救出されてからアイアンマンのスーツ開発に没頭するトニー、という、イケイケ社長的部分とオタク男子的部分が非常に鮮烈に描かれているためよくわからない人もいるらしいのだが、
トニーが帰国してからもアイアンマン開発にいそしんだのは「自分のつくった兵器」が他国でも使われていることに対する義憤によってであって、それはインセン教授の死が原因となっている。
さらに、最初にアイアンマン(トニーが帰国して、変節してからのアイアンマン)が活躍するのはインセン教授の故郷の村だ。

物語終盤ではアフガンゲリラに武器を流していた黒幕が(ネタバレになるので書かないが)「あの人」ということになって、アイアンマンの「本当の敵」はアメリカにいる、ということになる。
(このあたりの展開は、トニーの意志とは関係ないかもしれないが製作者の意志、である。)

要するに、最初から最後まで「アイアンマン」という映画は、単純素朴ながらも「アメリカのオトシマエ」について描いている映画であって、かつてのインディアンやギャングのようにアフガンゲリラをぶち殺してざまあ見ろ、という映画ではない(そういう見方も、まあできないことはないけどさ)。

もともと「アイアンマン」というキャラクターは、「武器で武器を倒す」という矛盾を内包している。
本作がよくできているのは(原作でもそうなのかもしれないが)、おそらくいちばん最初に「アイアンマン」の設定をつくったときには製作者が何も考えていなかったであろう「めんどくさい部分」を、単純ながらもふまえつつどうおとしどころを持っていくか、についてズルくもよくできているところで、こむずかしい理屈を封殺してしまう勢いにある。
(ここでいう「こむずかしい理屈」とは、もちろん「トニーこそ自由に生きる不良中年」とブチ上げてしまうことも、入る。)

確かにとってつけた設定ではあるのだが、それでもとってつけないよりは1億倍マシだし、またそのようなエクスキューズがなければとても公開できなかっただろう。
根本的に、スーパー・ヒーローに「悪の魅力」を見出すこと自体が、別にやめろとは言わないが本来倒錯的な行為であることは、自覚すべきだろうね。

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