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【アニメ映画】・「スカイ・クロラ」

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監督:押井守

なんか架空世界みたいなところで、戦争する兵士たちの中で、生まれながらにして子供のまま、殺されないかぎり死なない存在を「キルドレ」と呼んだ。
そんなキルドレたちの日常をうんたらかんたら。

結論から言うと、面白くなかったです。残念ながら。

・その1
まずテンポがのろい。これが最大のネック。
ただし、「退屈なときの押井守」のテンポというのは私が観たかぎりだいたいこんな感じだった。だから、「ポニョ」を観たときの「宮崎駿って本当にダメになってしまっただね……」というような失望感はない。

内容について。
原作は読んでいないが、本作はふたつの問題が乖離してしまっている。

・兵士たちの「ゲームのような戦争」によって、民間人の生が保証されている世界
・死ねない「キルドレ」という存在が象徴する「終わりなき日常」

「人間を将棋のコマのように動かし、殺し合いをさせる」という話は映画や小説で過去にいくつもあったと思う。
しかし、その場合たいていが「殺し合い」、「戦争」といった、死と直面することこそが「生の実感」を味わえるということになっている場合が多い。
だからこそ、「将棋のコマ」となった人間たちも、「死のゲーム」の魅力を否定することができない。
その矛盾を描いた作品が多かった。

ところが、本作では「キルドレ」である主人公は、ふだんの戦闘機による出撃を「死と隣り合わせの危険なゲーム」とはまったく考えていない。
そして、他の登場人物たちも「終わりなき生」に苦しむのだ。

あれ? でもキルドレでも殺されれば死ぬんだよね? それは別に恐くないの?

しかも、日常的に「死の危険」にさらされている、兵士という立場なのに?

ここを看過するかしないかで、作品評価が大きく変わってくるだろう。

たぶん、押井守にとっては「カクメイ」で死ぬ以外の死は、どうでもいいことなんだろうね。これは「イノセンス」を観たときも感じたことだけど。
本人がインタビューなどでなんて言っているかは知らないんだけど、前にも書いたが押井守の絶望というのは「カクメイが起きない」ことに根ざしているから最初から倒錯している。だから、それに共感できないと観客は何を言いたいのかまったくわからない、ということも生じてくる。

・その2
本作に関して、「本来、普通の人間にとってはリアルなものである『戦争』をゲームだと規定し、いわゆる『終わりなき日常』を設定するのは、架空世界を構築してその問題点を指摘し、嘆くようなもの」という批判を読んだ。

まあ、実際そう思われても仕方がないというか、むしろその考えには同感なのだが、

「ビューティフルドリーマー」の頃から押井守の考えが変わっている、というふうには自分は思わない。

テレビ版の「うる星」で、確かメガネが「退屈な、終わりなき日常」的なことを言っていた記憶があり、自分には当時からそれが疑問だったからだ。
しかし、80年代という時代が、日本では冷戦下の、一種の無風状態にあったことは事実のようだったから、後から「そういう観点」を自分は認めることにしたのである。

ちなみに「うる星」の同時代に「こんな平和でのんきな世の中、いつまでも続かないぞ」と警告したのが「メガゾーン23」で、テーマとしては凡庸ではあるがそれだけに筋は通っていた。

要するに、押井守や、「完全自殺マニュアル」の頃の鶴見済などは、「自分の思いどおりの社会変革」が起きなければそれはすべて「なかったこと」にしてしまうようなところがある。そりゃ、個人の歴史認識の問題だからどうとでも言えてしまうわけだ。
で、私はそうした考えを正しいとは思わないし、この「スカイ・クロラ」に至っては、どこか押井守の世界認識そのものに大いなるカン違いがあるとしか思えないのだが、ただこの人はどんな時代になってもこうなのだろうなという感覚はある。

だから、本作を観て怒りまくるのもちょっと違う気がするのである。
確かに、本作単体だとおかしいんだけどね。何かすべてが。

・その3
怒りまくるのなら、押井守の作品の変遷を読み解いて説明してほしいというような気がどうしてもしてしまう。
監督が変節したり、ボケちゃったりして変なものを撮ったのなら、その「変化」を指摘するべきだと思うが、たぶん押井守自体の考えは大きくは変わっていないんじゃないか、と思うから。

その辺はいろいろと議論の余地があるんじゃないかと。

私個人は、(繰り返すが原作読んでないけど)「ゲームとしての戦争」を描いたにも関わらず、当事者もぼんやりしたゲーム感覚で戦争をやっているというのが最大の問題だと思うけどね。むしろ「どこかのだれかに『戦争をすること』を託した人々の日常」を描けば、多少なりともリアリティがあったと思うのだが。

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