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【創作】・「以下に書くことは、全部創作です」

あれはバブルが絶頂期の頃。
私が大学のキャンパスにあるベンチに座って雑誌を読んでいたら、同じクラスの男三人が私に声をかけてきた。
三人とも、親しくはなかった。三人のうち二人はシーズンスポーツ系のサークルに入っていることは知っていた。残りの一人は、確か「広告研究会」だったか? そうだ、それだ。
真ん中のやつがリーダー格。ポロシャツのえりを立てて、浅黒い肌をしていた。むかって左が、そいつと同じサークルに入っているやつ。サークルのロゴが背中に入った、紺色のジャンパーを着ていた。
むかって右側が、広告研究会の男。茶色いフチの、大きめのメガネをかけていた。

「ムラナカさあ、○○に就職決まったんだって?」
真ん中のリーダー格みたいなやつが、私にそうたずねてきた。
探るような目つきとともに、口にはニヤニヤ笑いをへばりつかせている。
「○○? 違うよ、○○の子会社だよ」
私がそう言うと、その三人の中にある変な緊張感のようなものが、すべて解けたようだった。
三人はホッとしたようで、お互いの顔を見合わせて笑いあった。
「なんだ、やっぱりガセじゃん!」
「だれだよ、そんなこと言ったの」
「おまえが聞いてきたんだろ?」
「おれじゃないよ、聞いてきたのはタナカだよ」
三人は女子中学生みたいにじゃれあって、クスクス、クスクスと笑っていた。
「子会社ってそこ、何やってんの」
リーダー格の男が聞いてきた。目は、私を見ているが本当は見てはいないように思えた。私に話しかけているようでいて、実は他の二人に聞かせているのだろう。
「何って……。あそこのデータ部門だけが数年前に分社化したんだよ」
私がそう言うと、私に対して返事をするのではなく、リーダーは他の二人の方を交互に見て、
「データ部門! じゃあ○○の業務とは直接関係ないんじゃん!」
と叫んで、なぜかは知らないが他の二人と笑いあった。
もう一人の、サークルのジャンパーを着た男が、リーダーに言った。
「あ、思い出した。あそこ。仕事で徹夜続きで、死者が出たってところでしょ」
「えっ、うそ、うそ!?」
メガネの男もその話題に食いついてきた。
「本当本当、労災になるとかならないとかで新聞に載ってた」
「そういえばさあ、××でもたいへんなことになってるらしいよ」
もう、私が内定を取った○○の子会社の話はどこかへ行ってしまっている。
無駄話が続いたが、その間、就職する当人の私は完全無視だ。
まあ、どういうことだかはだいたいわかっている。
私が、超優良企業と言われている○○への内定を取ったというウワサをだれかから聞いてきて、驚いて確かめに来たのだろう。
○○といえば、ウチの大学のウチの学部でも上位二、三には入る人気ゼミに入っていないと、とうてい就職の見込みがないと言われていたところだ。
ゼミにも入っていない私が就職できたと聞いて、おかしいと思ったのだろう。
だから、私が内定をもらったのが○○の子会社、と聞いて安心して、はしゃいでいるのである。
「ムラナカ、他にどこの内定もらってんの、○○の子会社に決めたの?」
ひとしきりはしゃぎ終わった後、リーダー格が聞いてきた。
「もう決めたけど……。すでにバイトにも行ってるし」
私がそう言うと、サークルのジャンパーの方が「バイトだって!」と、リーダーのほうを見て意味もなくはしゃいだ。
メガネの方もクスクス笑っている。
メガネの方が、私の顔を見ずにリーダーの顔を見て言った。
「いやー、○○に入れたなんて、ウチのクラスでいちばんいいとこ行ったんじゃないか? と思ったけど、違ってたね」
「そうなると、今のところいちばんいいところに内定もらったのって、××に決まったカナモトかな?」
リーダーが言う。すでに三人の興味は私から、「クラスのだれがいちばんうらやましい内定をもらったか?」というところに移っていた。
まあ、こうやってこいつらの好奇心を満たすだけのサカナにされてもしょうがない、と私はこのときまでは我慢していた。どうせふだんから付き合いはないし、卒業したら合わなくなる連中だ。
そうしたら、私の臨界点を、リーダー格の男が軽々と超えてきた。
「ムラナカさあ……○○の子会社はやめといた方がいいんじゃない?」
「は!?」
私は思わず声を出してしまった。本当に「は!?」という気分である。
「死人が出たってのは本当だしさ。それにおれの見るところ……」
リーダー格の男は私の頭の先からつま先までを見て(瞳が上下するのでわかった)、
「おまえって、そんなに忙しいの向いてないだろ? 公務員試験受けないの、公務員試験。タネダは受けてるって言ってたけど」
「大きなお世話」という表現しかしようがない言動だが、さらに腹が立ったのはヤツが引き合いに出したタネダという男だ。
タネダはクラスでも変わり者で、全身から「ダメ」オーラを発散させているような男だった。ここでタネダの「ダメ」がどういうタイプのものかは伏せるが、要するに、私とタネダは同程度の人間だと、コイツは言いたいわけだ。
「あのさあ」
私は思わず声を出していた。
「そんなこと、おまえらには関係ないだろ? 何を言ってるんだ? だいたい三人でやってきてクスクスコソコソ人前で話しやがって。おれに質問に来たんじゃないのか? 『やめた方がいい』って、おれのどこをさして何を根拠に言ってるわけ? ふざけるなよ」
私がまくし立てている間、リーダーの男には予想外の反撃だったらしく、両目の中の瞳がピクピク動いているのが見えた。
他の二人のうち、左側のサークルジャンパーの方は驚いた顔をしていたが、右側のメガネの方は、まだ私を怒らせたということを理解していないのか、それとも私が怒ったということもふくめて「ネタ」だと思っているのか、それとも非礼なことをしてしまったという自覚から来る照れ隠しか、なおもニヤニヤと笑っていた。
そのニヤニヤ顔を見ていて私は頭に完全に血がのぼってしまった。
「ニヤニヤ笑ってんじゃねえよ!!」
私は、雑誌の下の右手に隠し持っていたスチール製の三十センチの定規を取り出して逆手に握りなおし、メガネの顔を下から上へはねあげた。
「ぎゃおうっ」
犬みたいな声をあげて、メガネは顔をおさえてのけぞった。
小さな町工場である実家で、機材を使って慎重にヤスリで目盛り部分をとがらせた護身用の定規だ。握りの部分だけはヤスリで削っていない。ヒマなときにはこれで実家の雑草を刈ったりしていたから、切れ味は熟知していた。
メガネは真っ二つに割れ、地面にポトリと落ちた。
メガネ(これは私が勝手につけたあだ名の方のメガネという男)は両手で顔を押さえ、うずくまった。両手からボタッ、ボタッと血がしたたり落ちた。
キャンパスの土の地面に落ちた血だまりを観て、リーダーとサークルジャンパーはあとずさったが、
「うわ~ヤバいよこれ」
「おまえ内定、取り消しだな」
現状を認識していない、どこまで言っても人生ネタだみたいな、そんな彼らの生き方を象徴するような言動を聞いて私はますますカッとなった。
靴底のラバー部分に、これまた工場で磨き上げたトゲトゲの付いているスニーカーをはいた左足の裏で、私は座った状態からサークルジャンパーのどてっ腹を思いっきり突いた。
やわらかい腹の肉にみっしりと、靴底のトゲの一本一本が刺さる感触を私は足に感じ、なおかつそれをぐりぐりと押し込むように蹴り出す。
サークルジャンパーの腹にいったん刺さったスニーカーのトゲは、蹴り出した勢いで腹から離れる。
座ったままの蹴りだったため、威力は少なく、サークルジャンパーは立って二、三歩あとずさりしたまま腹を押さえて立ち止まった。
私はサークルジャンパーの痛がりを見届けず、左足を踏み出した状態から身体を起こし、そのいきおいで今度は左手に隠しもっていた、高校時代に使っていた硯で、リーダー格の男のこめかみを力任せに思いっきりぶっ叩いた。
硯は思いのほかもろく、私の左手の中でグシャッと割れた。このため、私は左手の指を少し、リーダー格の頭にぶつけて少し傷めてしまった。
しかし、そのときは興奮しているので気づかない。
リーダー格の男が頭をおさえて前のめりになったところに、すかさず右手のスチール製定規をふりおろした。
リーダー格が頭をおさえた左腕が、定規で縦に切り裂かれた。
「うわっ」
驚いたリーダー格が、自分の右手で切り裂かれた左手をおさえ、頭部が再び無防備になった瞬間、私の右足が跳ね上がり、リーダーの頭部を粉砕した。
リーダーは頭から血を流して、ぶっ倒れた。
うずくまったメガネは完全に戦意喪失していたので、落ち着いて背後のナップザックから大理石製の灰皿を取り出すと、私はメガネの頭部をそれで思いっきりぶったたいた。
大理石製の灰皿は割れなかったから、私の手に反動が返ってきて少し痛かった。
その数秒間の光景を、サークルジャンパーは血がにじんできた腹をおさえて呆然と眺めていた。
人間はもともとそういうものなのか、それともコイツがそういう性格なのかはわからないが、なおも笑顔をつくろうとしていたことが私の神経を逆なでさせた。
私は座っていたベンチのせもたれの部分をミリミリとむしりとり、数歩下がってから、槍投げの要領でサークルジャンパー向かって投げつけた。
それは彼の腹を貫き、反対側に突き出た。
三人とも死んだと思うが、確認はしていない。
私は、愛用のスチール製定規だけを持ってその場を去った。
興奮していたので、動悸がおさまらない。二号館の1階にある自販機で「リアルゴールド」を飲んでから、なんだか無性に校舎を破壊したくなってきた。
すると、あつらえたように業者が乗ってきたであろうトラックが置いてあったので、それに乗り込み、校舎がきちんと破壊できるようにじゅうぶんな距離を取ってからトラックを突進させた。
私はトラックが校舎にぶつかる寸前に、外へ飛び出た。
クルクルと回って、柔道の受身を使って地面に踏みとどまった。
トラックはみごとに校舎に激突した。

そしてなんだかんだあって、人類は滅亡した。
(身近な展開から急に「人類」にまで話がおよぶので、この文章は「セカイ系」だよね。死ね!!)

おわり。

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