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・「リスク」 全2巻 笠原倫(2004、日本文芸社)

Risk
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「私たちは気づいたのよ 他の国に軍隊送るよりセックスしてる方がよほど人間として上だって」
「よく聞け小娘 お前の意見は正しい……のかもしれんが シラフで言ってくれ!!」


「反ドラッグ」と聞いて連想するのは、「ダメ。ゼッタイ。」のどこかそらぞらしいポスターや、「ヘンな映画」にカテゴライズされる「Reefer Madness」、「悪魔の凶暴パニック」といった映画群だ(どちらも私は完全には未見、映像がユーチューブに上がってます)。

「覚せい剤でのラリった状態や禁断症状の描写がエグい」と聞いていた本作も、そんなカルトなマンガかと思ったらとんでもない。
これは、正統派の70年代東映的アクションマンガの傑作なのである!!

かつてアイドル志望だった女性・綾瀬アヤノは麻薬取締官となった。ルーキーの彼女はいっぷう変わった「薬狩り中毒」の男、財前要との同行を命じられる。
財前は自身が元覚せい剤中毒者であり、現在でもそのフラッシュバックに苦しんでいる。それをおさえるには、いつも持ち歩いているサックスを吹くしか方法がない。

一方、ヤンマ組組長・鬼山丈は自分より上の親分が反対するシャブをシノギとすることでのし上がってきたヤクザ。「自分で試したシャブしか扱わない」という重度のシャブ中である。
彼が、幼少の頃発狂した父親に覚せい剤を打たれて以来、「麻薬オタク」となった美女・御手洗兼子と手を組んだとき、かつてないほど大規模に覚せい剤がバラまかれることになる……。

ふとしたきっかけからドラッグにハマっていく女子高生・園山ミホやその周辺の人間関係とともに、魂に欠落感を持った人間模様を描いた傑作アクションだ。

まあテクノ大好きだった私としては、「エクスタシー」の描き方なんかは正しいのかどうなのかよくはわかりまへんが、本作における「ドラッグ」、「覚せい剤」というのはいわば「心の欠落を埋めてくれる、多大なる副作用がある魔法の薬」なのである。そして、それは魔法ではなく、本当に存在する薬物であるという恐さを十二分に描いている。
そのブレのなさが、本作に「単なる覚せい剤を中心に持ってきたアクションもの」で終わらない迫力を出している。

財前がシャブ中になった理由は、信頼のおける麻薬中毒者更生施設の所長自身が薬物によりおかしくなり、彼から強制的にクスリを大量投与されたからである。
つまり財前には常に「善人が堕ちていったのを目の当たりにした」という絶望感がつきまとっている。
御手洗兼子も同じ。

対するに、シャブを扱うことに何の罪悪感も持っていないヤクザ・鬼山の存在がある。欲を言えばもう少し鬼山の狂気が全面に出ていればという気もするが、それでも財前が対決するのに充分な敵だ。

何となく毎日が面白くないから、というような理由で薬物中毒になっていく園山ミホ周辺の描写もたいへん秀逸である。

冒頭に引用したセリフのように、このマンガの登場人物はみんな現状に、世界に絶望している。
しかし、それがシャブに耽溺する理由にはならないじゃないかと、財前はフラッシュバックに苦しみながら、最後の最後に、鬼山を捕まえるために覚せい剤を打たなければならないところまで追い込まれながらも、血だらけになっても立ち上がる。

これに燃えずしてどうするんだ!? という感じである。

キャラクターの全員(アヤノを除く)が現状に絶望している。これでシラケきったらただのセカイ系にすぎない。キャラクター全員があがき、ある者は滅び、ある者は傷だらけの中立ち上がろうとあがく。そのあがきに対するダンディズムがすばらしい。

確かに多少描き足りないところはあるかな、と思うが、書店で見つけたらゲットして損はない一作。

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