« 【ポエム】・「道路とロードは紙一重」 | トップページ | 【アニメ】・「電脳コイル」 »

【ポエム】・「だれにも向かない職業」

 人生に大切なことは、すべてマンホールから学んだ。そう言ったのは、米兵に女をあっせんして小銭を稼いでいたジミーだ。しかし、あいつはドブ板に顔をつっこんで死んじまった。

 それからおれの捜索が始まった。ジミーを殺したのはだれなのか。そして宝石「アフリカの印象」を盗み出したのはだれか。

 「非常口の刺青の女」。情報屋はそう言った。小さな箱の上に「占い」という看板をかかげて、日がな座っている男だった。左手の甲にひどい傷があった。顔は柔和だった。
 非常口マークの刺青を、二の腕にしている女。それが手がかりだった。おれは走り回った。おれのサファリジャケットは汗だくになった。おれのレイバンのサングラスは真夏の太陽を反射して光った。

 あるライブハウスに、左の二の腕に包帯を巻いている女が出て歌っているということを聞いた。おれはそのライブハウスに行った。
 舞台で女が歌っていた。確かに、左の二の腕に包帯。包帯に血がにじんでいた。パフォーマンスにすぎないのだろう。女の後ろでは、プロレスラーのような大男がギターをかきならしている。
 彼女の出番が終わり、おれは近づいた。よく見ると、髪の長い、いい女だった。ただし、生気というものがない。
 ボディガード役でもあるのか、ギターを弾いていた大男がおれの腕をつかんで引き離そうとした。

 そこが光に包まれた。

 暖かい光だった。

 なんだ……これは……なつかしい……すべてが……。

 ぼんやりとした光の奔流の中から、男の顔が見えて来る。
 情報屋の占い師だった。

 世界は……光に……包まれているのです……。

 この世は……神の……なんとかかんとかです……。

 男はおごそかに言った。
 とつじょ、横から巨大な力士が現れ、張り手で男を跳ね飛ばした。
 占い師の男は、どこかに飛んでいった。

 力士の前に立ちふさがったのは、さっきギターをかきならしていた巨漢だ。
 ギターの男は、身ごなしからするとアマレスをやっているようだった。
 力士と男の肉体が激突する瞬間、CMが始まった。

 ラーメンに、生卵を落とすスポットができました!!

 このCMは、月よりも大きい通信衛星によって、そのラーメンが発売されていない地域にも放送された。

 ラー・メン
 ラー・メン

 アメンホテップ~。

 歌を歌っているオーバーオールの少女。おさげ髪の少女。
 
 ジミーの妹だ!!

 「兄さんを殺したのは私よ。アフリカの印象がほしかったんだもの」

 うそだ、バカなことを言うんじゃない。キミはそんな子じゃない。

 「あなたに何がわかるっていうの。あなたに私の気持ちがわかるっていうの? もうすぐ、月よりも大きい通信衛星が日本に落下するわ。そしてすべてが滅びる。この計画の邪魔はさせない」

 おれは身体が動かなかった。しかし思い出していた。子供の頃のことを。

 「わーん、10円落としちゃった~!!」

 おれのトラウマ。
 おれの克服すべき過去。
 10円玉。
 
 おれはすべてを理解した。
 そして理解したとき、すべてのくびきから自由になっていた。

 「な、なんなの、バカな、そんなことが!!」

 ジミーの妹はあきらかにうろたえていた。それはそうだろう。勝利を確信した者の前にいる、無力だと思っていた相手がとつじょ巨大化したのだから。

 おれは巨大化した自分の身体をほれぼれと眺めた。
 まずは喉の渇きをいやしたい。

 と思ったが、やっぱり決着をつけてからだ。
 
 おれは坂道をかけのぼり、いきおいよく走ってくだっていくその勢いで、下に敷いてあるマットレスに体当たりした!!

 「ギャアアーッ」

 だれかの悲鳴が聞こえた。
 おれの意識は薄れた。

 気がつくと、おれは街の雑踏の中に一人立っていた。

 「ジミー……」

 自然と声が出た。
 涙があふれ出てきた。
 しかし、その名前の意味はわからなかった。
(完)

|

« 【ポエム】・「道路とロードは紙一重」 | トップページ | 【アニメ】・「電脳コイル」 »

ポエム」カテゴリの記事