【映画】・「魔法にかけられて」
監督:ケヴィン・リマ
ディズニー映画。冒頭はアニメーション。おとぎの国みたいなアンダレーシアで森の動物たちと幸せに暮らすジゼル姫。
彼女は、エドワード王子(いわゆる典型的な王子様)にひと目ぼれ。すぐに結婚したいと思う。
しかし、王子様の継母にして魔女・ナレッサの魔法により、現代のニューヨークへと飛ばされてしまう。ここからは実写映画となる。
そこで弁護士のロバートと出会ったジゼルは、自分の信じる「永遠の愛」と、離婚歴がありリアリストであるロバートの考える「愛」との違いにとまどうのだが……。
ずーっと前に、「感想を書く」と言ってほっぽっておいたので、今書きます。もうとっくに公開は終わってると思うけど。
以下、ネタバレ全開で。
・その1
本作は、ジゼル姫と弁護士ロバートが次第に愛し合っていくさまを描いているが、そこでジゼル姫が「真の愛にめざめた」みたいな描き方をしていないところがすごい。
これでディズニー・プリンセスであるジゼル姫が、自立と現代的な恋愛にめざめるようなストーリーを、観客はだれも望んでいないはず。
そもそもが、ロバートは離婚歴があり、小学生くらいの娘に「強い自立した女になれ」といった感じの教育をしているという人物。また、そのロバートの現在の恋人・ナンシーも、いかにも「仕事のデキる、自立した女」というキャラクター造形がなされています。
いわば、この映画はそんな「たぶんあるべきニューヨークの男女の恋愛」が「別れ」に終わっているところから出発しているのです。
だから、実は本作は「いわゆるディズニー映画における甘ったるい恋愛を否定しつつ、本当の恋愛」を描いた作品ではないことに注意すべきだと思います。
たとえばロバートはナンシーに、ジゼルとの仲を誤解されてしまう(まだジゼルとロバートが愛し合う前の段階)。
これを解決するのは、ジゼルの浮世離れした、まさにディズニー風の、ナンシーへのプレゼントなんです。
ジゼル/ロバートとともに、ややご都合主義ながらエドワード王子/ナンシーの恋愛が描かれめでたしめでたしとなるわけですが、ジゼルがニューヨークに残る代わりに、キャリアウーマン風の雰囲気を持つナンシーはアニメの国アンダレーシアで、王子と結婚式をあげることになります。
この最後の十数秒間の演出がまったく絶妙。
アニメの世界に入ったナンシー(実写との組み合わせとかではなく、アニメーションのキャラになっている)は、エドワード王子との婚礼の最中、鳴り出した自分の携帯電話を放り投げてしまいます(ここ、記憶曖昧。とにかくその電話には、出ません)。
そして、まるで昔の男が女をリードしていたように、王子を抱きかかえてキスをします(ここも記憶曖昧。たぶんキスまで行っていたと思う)。
わかります?
これが、「今までウットリしていたナンシーが、携帯が鳴ったとたんに新郎であるエドワードを放り出す」でもダメ。
携帯を叩き壊したナンシーが、エドワードの腕に抱きかかえられてウットリするのでもダメ。
その中間を行っているというのが、演出として完璧なんですよ!!
これで観客は映画館を出るときに、オトメチックな人は「乙女」な部分を温存して済むし、日々の仕事に追われてカリカリしている人も「こんなロマンチックな映画も、いいよね」と思いながら家路に着けるんです。
簡単に言えば、二周くらい回って観客の「乙女心」をくすぐっているというわけです。本当に「お見事!!」と思ってしまいました。
・その2
しかし、そんな完璧なプロットである本作には、ある詐術(うまいこと言おうと思えばまさに「魔法」)が含まれています。
それは、ジゼル姫の心理の変化は描いているのに、「理想の王子様」であるエドワード王子の内面は、ほとんど描かれていないということです。
「理想の王子様」だけが、最後まで「理想の王子様」であり続けるのですよ。
というか、この物語をファンタジーとして可能にしているのは、このステロタイプな「エドワード王子」がいてこそなんですよね。
そこを批判する人もいるかもしれないですが、私はそういう立場は取りません。
さて、じゃあ「理想の王子様って何を考えているの? その内面ってどうなっているの?」ということを突き詰めていくとどうなるか。
「少女革命ウテナ」になるんです!!
「少女革命ウテナ」とは、まさしく戦いの中心に鎮座する「王子様って、いったい何なの!?」というところに踏み込んでいった作品です。
しかし、そこはファンタジーにとってはある意味禁断の領域。というわけで、「ウテナ」では最終回で、すべてが瓦解してしまいます。
徹底的にテーマに踏み込んでやりあって、いわゆるウェルメイドな作品からはかけ離れたからこそ、人々に衝撃を与えたのが「ウテナ」。
最後までファンタジーを温存し、暖かい作品に仕上げたのが「魔法にかけられて」だということはできるでしょう。
どちらを支持するかは、お好み次第です。
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