【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第9回
「やられた……! それにしても、どいつもこいつも、敵の差し入れを食うとは……」
ジンパチは舌打ちしたが、すぐに思い直した。
「この町のボスになるのはおれだ。そのときには仲間が少ないほうが、分け前は増えるというもんだ」
この段階ではじめて、ジンパチは実家に足を踏み入れた。
「むっ」
小麦粉ババアも、死んでいた。手には食いかけの饅頭を持っていた。
「桃次郎のしわざか……」
いまいましく思いつつも、そろいもそろって敵の差し入れを食うという神経が、修羅場をくぐってきたジンパチには理解できない。
ジンパチは、小麦粉ババアの死体を見つめながら、一升瓶を取り出して酒を飲みだした。
しばらくすると、電話が鳴った。
「バーバーダム家だ」
出ると、凛々しい若者の声がした。
「ジンパチか。おれはポッピョピョン家の最後の生き残り、柿三郎だ。貴様、越えてはいけない一線を越えてしまったな。勝負がしたい。明日の午後2時、『存在感薄い公園』に来い」
「わかった」
探す手間が省ける。ジンパチは短く返事をして、電話を切った。
翌日、午後2時、「存在感薄い公園」。
ジンパチは早めに来て、場の状況を把握しようとしていた。
本来なら、栗太郎のときのように遠方から狙撃してしまうのがいちばんだろうが、柿三郎が場所を指定してきた以上、こちらの出方もお見通しだろう。
そこで、死角のないよう公衆トイレを背に、どこから柿三郎が着てもいいように待っていた。
もちろん、自慢の拳銃はきちんと手入れをしてあるし、ある「汚い手」も用意していた。
「逃げなかったんだな……」
午後2時ぴったりに、柿三郎はやってきた。
栗太郎は顔は栗、身体はマッチョだったが、柿三郎は顔が柿、そして身体は栗太郎など問題にならないくらい筋肉質であった。
位置はジンパチの真正面である。距離は10メートルほど。
この瞬間、狙撃してもじゅうぶんやつを殺せる……。
ジンパチは一瞬そう思い、そして次の瞬間、その考えを撤回していた。
いや、違う。こいつはできる。
ジンパチに、初めて焦りのような感情が芽生え始めていた。
「栗太郎兄さんが、跡取りとなったのはやはり失敗だったんだ……」
柿三郎は、勝手にしゃべり始めた。
「そもそも、ポッピョピョン家は格闘家の一族だった。
今では忘れ去られているが、異次元ではちょいと名前を知られたこともある。しかし、父のズンドコ之助はおそろしいまでに怠けるのが好きだった。
20年前、祖父のドンドコドコ佐衛門が死んでから、ズンドコ之助はこれ幸いと格闘家の看板をおろし、ニート生活に入った」
「子供たちにも、格闘技を教えることはしなかった。毎日まいにち、怠けてばかり。
怠け者の栗太郎にいさんを跡取りにすえたのも、息子の代で格闘家としての活動が復活することを防ぐためだった」
ジンパチは、柿三郎の話を聞きながら、隙をうかがっている。
「しかし、自分はイヤだった。毎日まいにち怠けて暮らすのが……。
そこで、重い石を持ち上げては谷底に放り投げる仕事をした。生活費を稼ぐのはもちろんだが、格闘家としての鍛錬の意味もあった」
「ズンドコ之助は、私が肉体労働をしているとしか思っていなかっただろうが、実は違う。
バイトの後には、格闘技の特訓に明け暮れた。祖父のドンドコドコ佐衛門、父のズンドコ之助の技を復活させるのは大変だった」
ジンパチは、「今だ!」と思い、前方に左手でわずかに合図を送った。
パーン!!
何か大きな音がした。ジンパチの子分が、合図を受けて出した音だった。
その瞬間、柿三郎はハッとして動きを止めた。
「何がどうだろうと、死ぬのはおまえだぜ!!」
ジンパチは抜き身の拳銃を構えて、撃った。距離は10メートル。避けようがない。
第10回(最終回)に続く
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