【感動自作小説】・「栗太郎とひょっとこ姫」第7回
やけに寒い日だった。
今日も、栗太郎とひょっとこ姫は「存在感薄い公園」で会っていた。
すでにピョメピョメ倶楽部の話題も尽きていたが、やがてお互いの日常生活について語り合うようになっていた。
「……気づいていたよね?」
ひょっとこ姫が言った。下を向いている。ひょっとこのお面のせいで、表情はわからない。
「ああ。おやじたちがファミレスの座席を奪い合っていることだろ?」
栗太郎はため息をついた。
あんないがみ合いをしていたら、いつまで経っても自分とひょっとこ姫は、大手を振って会うことができない。
しかも、ひょっとこ姫のきょうだいたち……。小麦粉ジョー、小麦粉豊作、小麦粉キャッツ、小麦粉太郎、すべてが、ズンドコ之助の通報によって逮捕されてしまったのだ。
栗太郎には、済まないと思う気持ちがある。
「いいよ……。ドロボーはドロボーなんだから。捕まるのも、時間の問題だったよ」
ひょっとこ姫は、言った。
小麦粉ババアは放心状態になってしまい、今では家で異次元テレビをぼーっと眺めている状況だという。
「ウチのおやじだって、毎日ファミレスに入り浸って、柿太郎のバイト代でビールばかり飲んで……。ひどいもんさ」
栗太郎は言った。
しばらく沈黙が続いた。
「ねえ、なんで栗太郎さんは働かないの?」
ひょっとこ姫の何気ない言葉に、栗太郎は激しく動揺した。
(自分が怠け者なのが、バレた……!?)
必死にごまかしてきたが、とうとう言われてしまった。ああ、弟の柿太郎がバイトしてるなんて言わなければよかった……。弟と比べられてしまったのでは?
栗太郎の心の中に、さまざまな思いが去来する。
しかし、とっさに栗太郎はしゃべっていた。
「ぼくがニートなのには、わけがあるんだ。実は全異次元ニート選手権というのがあって……」
栗太郎の必死の自己弁護に、ひょっとこ姫の彼に対する好意はガラガラと崩れ去っていった。
当然、「全異次元ニート選手権」なんて、ない。
「私だって、コンビニでバイトしているのに……。この人は話を聞いていると、ピョメピョメ倶楽部のCDを図書館で借りて家で聞いて、後は毎日、つくりおきのおかゆをすすっているだけじゃない……」
ひょっとこ姫の疑念が最高潮に達したとき、一発の銃声が轟いた。
「栗太郎さん!!」
ひょっとこ姫が叫ぶ。栗太郎の胸板を、拳銃の弾丸が貫通したようだ。
栗太郎の胸から、ピューッと血が葺き出して来る。
「バーバーダム家を、なめるなよ」
声にひょっとこ姫が振り返ると、そこには拳銃を持った男が立っていた。
「ジンパチにいさん……!! いつこの町に戻ってきたの……!?」
「二、三日前さ。ひさしぶりに来たので少し様子をうかがっていたんだが、妹のひょっとこ姫よ、おまえもこんなチンケなやつに関わるんじゃねえよ」
彼の名は小麦粉ジンパチ。小麦粉ジョーの弟であり、小麦粉豊作の兄である。三年前にやくざの舎弟になって三人殺し、ずっと逃げ続けていたのだ。
それが今、帰ってきた。
「おれはこの町のボスになる。そうしたらひょっとこ姫も、ハンバーガーだけでなくチーズバーガーも食べられるようになるぜ」
ジンパチは姿を消した。ひょっとこ姫は追おうとしたが、栗太郎が撃たれたことに気づき、彼の方を振り返った。
栗太郎は、死んでいた。
第8回につづく
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