【映画】・「戦後猟奇犯罪史」
1976年、東映京都
監督:牧口雄二
脚本:金子武郎、中島信昭
出演:泉ピン子、川谷拓三、室田日出男、五十嵐義弘
いきなりカンケイない話だが、それぞれのジャンルのそれぞれのレビューにありがちな文体というものがある。
たとえば音楽だったらいかにも「ライナーノーツ的」な文体というのが、はっきり言語化できないけど存在する。
何年も前のミュージックマガジンだったか、「これは良質のポップスだ、という表現は聴いたことがあるが、これは悪質なポップスだ、という表現は聞いたことがない」という出だしの文章を読んだことがある。
なかなかいいツカミだな、と思ったら本当にただのツカミで、その後はただの良質のポップスの紹介が続くのだ。
あるいはそのジャンルのカリスマ評論家の文体にだれもが影響を受けてしまったり、あるいはいかにも重度ネット中毒者といった感じのテキストにもネット上ではお目にかかる。
で、映画の感想サイトを回っているとリクツっぽいところが多くないですか。まあ大半はただの感想だけど。
リクツっぽいことはかまわないけど、その映画を観てみよう、って思わせるところが少なすぎる。
それと、自己反省というかどうにもならない部分ですが、私は映画を観た後もほとんどの細部は忘れてしまいます。映画評は記憶力の良さが関係してくるジャンルなのかもね。
では本題。
泉ピン子が懐かしの番組「ウィークエンダー」のリポーター風狂言回しとして3つの猟奇犯罪を紹介するオムニバス映画(名前はぜんぶ実名とは変えてある)。
「第1話」は室田日出男が演じる西口彰事件、だそうである。
佐木隆三の「復讐するは我にあり」のモデルとなった事件だそうだがぜんぜん知らなかった。まあよくある類型的な再現ドラマだとしか言いようがないが、室田日出男の犯罪者演技はあまりに最高すぎるので観るべきである。
「ほんものの役者がいなくなった」なんて何かを言ったつもりで実は何も言っていないことを言うつもりはサラサラない。まず時代の違いがあるから。
室田日出男の演じるすべての悪役には、その後の「何を考えているのかわからない」、「いかにも脳がツルッとしていそうだがいっちょまえに論理武装だけはしていそう」といったイマドキの犯罪者の風情は微塵もない(それらを演じきれる役者は、たぶん現在でもたくさんいるんだろう)。
室田日出男演じる犯罪者には、ガキの頃に貧乏だったとか、おそろしく短気だとか、女が好きで好きでしょうがないとか、そういう理由がきちっとある。
「西口彰事件」は、映画を観るかぎりかなり「犯罪者が何を考えているのかわからない」タイプの事件なのではないかと思うが、室田日出男が演じるとそこによくも悪くもスッと背骨のようなものが通るのであった。
2話目は、歌手克美茂の愛人殺害事件。これは1話目以上に「再現ドラマ」以上のものがないが、たまたま最近ビデオで「不良番長」を観たら克美茂が出ていて、それまで使っていた役者の犯罪をドラマにして映画で公開するという、東映の世知辛さをヒシヒシと感じたのであった。
まあやったことは許されるべきことではないが、実際の事件は別にしてこの映画だけのこととして、主人公の動機の中に「この女は自分がカンバックできなくてもかまわないと思っているのではないか」という恐怖があったかもしれない、と思う(実際の映画ではそこまで描ききれてないけど)。
それは女にとっては包容力と独占欲のないまぜになったもので、そういうのって男一般ってけっこういやがるよね。
よく「男を手のひらの上で転がす」という表現があるけど、そういうのは女の独占欲を男に気づかせない、という意味が含まれているのではないかと思いましたよ。
第3話が大久保清事件。
主演は川谷拓ボン。
とにかく、すべてが、すべてがあまりにすごすぎる映画であった。
本当にすごい。拓ボンもすごいし、エゲツない演出もすごい。
とくにすごいのが、取調べ室で知的にふるまっていた清(拓ボン)が、「おまえは女の首を絞めて漏らすなんて最低の人間だ!」みたいなことを言われ、女の首を絞めて勃起していたことを思い出し、豹変し、それまでの雰囲気をかなぐり捨てて取調べ室でズボンをおろして股間に手を入れ、机の上に乗っかって瞳孔開きっぱなし的な顔で手を激しく動かし続けるシーン。
ラストの、発見された女性の死体に着いていたミッキーマウスの腕時計の針が動き続けている描写もすごかったけど。
今じゃできない演出なんだろうけどね……。ディズニーだから。
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