【書籍】・「X51.ORG THE ODYSSEY」 佐藤健寿(2007、夏目書房)
こういう若干懐疑主義寄りな超常現象関係の本で、「こんなレアな本を持っている」、「こんな意外な資料を探し出してきた」というのはたまに耳にするが(そして、それもすごい功績だと思うが)、実際に旅してしまうというのがすごい。しかも、ときには数ヶ月にわたり、あるいは身の危険も感じながらの一人旅。UFOだのナチスの陰謀だのを追わずとも、旅行記としてもかなり面白いものになったのではないかと思う。
しかし、もちろん本書のウリは「不思議なことが大好きな著者が、不思議なことを求めてわざわざ遠方まで旅をする」ということにある。
実は、最初は何のためにそんなことをするのだろう、と私も思っていた。ロズウェルに行ったところで、宇宙人の回収騒ぎが一種の都市伝説であったろうことはくつがえらないし、ヒマラヤに行って雪男が発見できるとも思えない。ところが、やはり行ったら行ったで必ず何か得るものがあるという、「旅」の当たり前でそして大切な真実が浮かび上がってくるのだった。
たとえばエリア51の近くのバーでは、今でも中年男たちが熱心にアメリカの陰謀について語り合っているという。反面、チュパカブラの伝説のある地域でそれについて尋ねて回ると、本気で信じている人はかなり少ないようである。
とくにオカルト・超常現象においては、あらゆるもの・ことがデータ化されるうえでどうしてもフラット化されざるを得ないという部分がある(もちろん、煽っている人々がそのようにしているからだとも思うが)。
それを一気に立体化させてくれるのが、「現地を旅してみる」ということなのかもしれない。
私自身がそれほどオカルト・超常現象について詳しくないので、本書の資料的価値や見解の真新しさを断言することはできない。が、「あまりにもなさそうだから」ということで、すでに風化してしまった伝説にスポットを当て、その成り立ちについて調査・研究、考察していることは貴重だと思う。
個人的には「謎の地下帝国シャンバラ」、およびイエティに関する考察はかなり刺激的だった。
また、懐疑的UFO本でも(私の知るかぎり)まともに取り上げられてこなかった落合信彦の著作「20世紀最後の真実」に、愛情をもって斬り込んでいるところがとても面白い。
この本の著者は落合信彦を「ノビー」と呼び、彼への愛着を惜しみなく語る。本作全体の「冒険」にかり立てたのも、落合信彦の影響であることをにおわせている。著者の年齢は書いてないが、おそらくは多くのオカルト懐疑派・肯定派ともに多い「70年代の日本オカルトブームに浸かってきた」世代ではなく、その次か次の次くらいの世代だろう。
著者の年齢がわからないままに予想を積み重ねても仕方ないが、それでもこの著者の「自分は懐疑的肯定派、もしくは肯定的懐疑派」というスタンスの表明、実際に現地に行ってしまう情熱と、かといって決してスピリチュアルなところに入り込まない冷静さ、その合間合間に挟み込まれるちょっとしたユーモアというスタンスは、むしろ70年代の日本のオカルトブームをよく知らない世代だからこそのものなのか、と思えて興味深い。
こういう本が出るのを知ると、そろそろ懐疑主義者個々人、個別に温度差、立ち位置が違うところにあることを、もう少し見つめる時代になってきたかな、と思うのであった。
ビリーバーにもいろいろいるだろうし、懐疑派だって事象の取り扱いにはいろいろあるだろうな、と考える時代かもしれない。
| 固定リンク
「書籍」カテゴリの記事
- 【テレビお笑い史】・「1989年のテレビっ子」 戸部田誠(2016、双葉社)(2018.02.02)
- 【書籍】・「グラビアアイドル『幻想』論 その栄光と衰退の歴史」 織田祐二(2011、双葉新書)(2016.11.25)
- 【書籍】・「ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか」 古谷経衡(2015、晶文社)(2015.10.02)
- 【書籍】・「宇宙戦艦ヤマトをつくった男 西崎義展の狂気」 牧村康正、山田哲久(2015、講談社)(2015.09.15)
- 【書籍】・「サブカル・ニッポンの新自由主義」 鈴木謙介(2008、ちくま新書)(2014.11.10)
「トンデモ」カテゴリの記事
- 『昭和・平成オカルト研究読本』著者がオカルトを語る! 本の裏話を語る!(2019.07.26)
- 【ドラマ】・「小野田さんと、雪男を探した男~鈴木紀夫の冒険と死~」(2018.03.31)
- 【同人誌】・「と学会史」(2017、と学会)(2017.11.25)
- 【新刊】・「タブーすぎるトンデモ本の世界」(2013.08.26)
- 【書籍・新刊】・「トンデモ本の新世界」(2012.11.22)