【書籍】・「アイドルにっぽん」 中森明夫(2007、新潮社)
「おたく」、「チャイドル」などの新造語を生みだした、かつて「新人類」と呼ばれたライター、中森明夫のアイドルに関する論考集。
正直、私の周囲で積極的に中森明夫を評価する人ってぜんぜんいないんだけど、私はけっこう好きである。
中森明夫の文章は、ものすごくぶっちゃければほとんどの場合が「特定の対象に対する持ち上げ」であり、その文章の中でその対象を簡単に総括し、現在を語り、そして未来を語る。
特徴的なのは、その「未来」が何十年も先のこととかではなくて、ほんの数瞬先、たとえばそのテキストの掲載誌が週刊誌なら一週間、月刊誌なら一ヶ月ほどの「未来」であるということ。
それともうひとつは、当然、その未来は輝かしいものであるということ。
たいていの場合は対象を精緻に分析したり、慎重でなおかつ長いスパンの予測をしたりということはない。
だからこそ、たぶん賞味期限が短く、単行本にもならない。本書にはいくつかのそのときそのときのアイドルコラム(主に「SPA!」でやってた「ニュースな女たち」)が収録されているが、これは取捨選択がなされているだろう。
だが、取捨選択がなされているだけに、チョイスされたコラムは現在まで射程が届いているものだ。
あるいは「精緻に分析したりすることはあまりない」と書いたが、本書に収録されている第二章「八〇年代/アイドルの肖像」と第三章「アイドル論を越えて」は、近頃ネットに溢れる数多のアイドル論を含めて評価しても、かなりのものとお見受けする。
そもそもが、アニメやマンガ、特撮などと違って「アイドル評論」というのはほんのわずかな人を除いて根付かなかった。その中にあって、アイドル論、あるいはアイドルに関する雑文で今までお金を稼いで来ただけですごいことであると思う。
中森明夫の「アイドル雑文」は、インターネットにあらゆる感想が溢れる現在こそ、評価されるべきものかもしれない。
……とここまで褒めたが、後半収録されている「篠山紀信」論を除くゴクミ、宮沢りえ、栗山千明、小沢健二、監禁王子などに関するテキストは、この人の悪い面が全面に出てしまっているというか、あまりにもコジツケな部分と無責任なアジリと感傷がいりまじっていて、ピンと来ない人もいるだろう(まあ、中森明夫にしてみればこっちが真骨頂かもしれないのだが)。
本書を読むと、中森明夫が決して80年代の浮かれ騒ぎの残滓で食ってきたのでないことは理解できる。
たとえば、「アイドル論」に関して、決して二次元美少女まで論じなかったことはおそらくこの人なりの「見識」であり、生身の女の子がアイドルを演じる、ということのみを論じるのがこの人の「覚悟」であり、
さらには美少女アイドルを語るときに必ず問題になってくるフェミニズムやジェンダーの問題にも、意識的なんだろうなと思う。
フェミニズムとかジェンダー論などをまじえてアイドルを語ることも可能なのに、あえてやっていないことがこの人の意識的なスタンスなのだろう。「小倉千加子論」が載っているからね、意識していないはずはないんですよ。
よく考えたらこの人、80年代に「ポストモダン」っつてたけど、もはや21世紀には彼の言っていた「ポストモダン」とは別種のポストモダン(たとえば東浩紀が言っているような)が立ち上がってきてしまっていて、変な話だけど「新・ポストモダン」の世の中で、「旧・ポストモダニスト」として自分がどう生きるかみたいな、そういう覚悟は何となく感じるんですよ。
アイドルが好きなら、読んでソンはないと思いますね。
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