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【映画】・「文学賞殺人事件 大いなる助走」

1989年
監督:鈴木則文

一流会社に勤める青年・市谷は、路上に落ちていた「焼畑文芸」なる小説の同人誌を拾う。この落とし物を届けた相手は、美しい人妻だった。
彼女に惹かれるというややよこしまな動機により、市谷は地元の小さな文学同人サークル「焼畑文芸」に入会する。個性的なメンバーや閉鎖的な雰囲気に辟易しながらも、市谷は自分の勤める会社の内幕を暴露した小説を書く。そして、それが「直本賞」候補になる。
そこから、市谷の人生は狂っていく……。

鈴木則文監督の映画としてはやや上品にすぎ、食い足りないところもあるが、原作小説が刊行された79年当時の文芸同人誌の状況が(ものすごく戯画化されているとはいえ)描かれていて、何ともやりきれない気持ちになった。

「アマチュア」がほとんど描かれない世界なので、同人誌活動をやっている自分にとってはこの映画が撮られたこと自体、なかなか貴重なことなのではないかと思う。
この映画が公開された1989年は、文芸同人誌のことは知らないがアニパロ同人誌は爆発的に数を増やしている。
旧体制の文芸同人誌と新しいアニパロ同人誌の違いを比較しながら、本作を観てみたい。

本作を観て痛感するのは、70年代から80年代にかけて(今は知らない)、「小説」を流通させるにはとにかく商業誌に掲載されないと話にならないらしかった、ということ。
地方の、本当に少人数しか読まない小説同人誌に対して鈴木則文監督の目線は優しいのだけれど、「大いなる助走」というタイトルどおり、それはあくまでも商業誌掲載までの1ステップ、というとらえ方である。
そして、自作の小説を流通させるために、同人作家には商業出版に関わる人間に対する屈折した感情が芽生えていく。

こういうネックになっていた部分を、マンガにおいてある程度解消してしまったのがコミケなどの巨大同人誌即売会なのだな、と思った。
もちろん、だれがプロになったとか何だとかそういう妬みそねみは現在でもあるだろうが、マンガも含めた昔の「同人サークル」の閉鎖性に比べると風通しはある程度、よくなったと思う。

たとえば印象的なのは本作の合評会のシーン。ここでは、みんなが言いたいことを言ってけなし合いになり収拾のつかない事態になる。かつてなぜ合評が必要だったかというと、同人誌のマーケットができていないため、送り手と受け手の関係がとても狭くなって「売り上げ」による評価が成立しなかった、ということがあると思う。
現在のコミケにおける同人誌が「同人」と名が付いていながら一人一党でもやっていけるのは、市場を形成させて「同人誌の読者」という存在をつくったことが大きい。

もうひとつ思うのは小説における「賞」の重さである。マンガの場合、商業誌・同人誌の区別なく「賞を取ったから売れた」なんて話、あまり聞いたことがない。毎年の漫画賞にしても、何が授賞したかなんて知らない人が多いだろう。
これはマンガ界が健全だとか何だとかということよりも、「すぐ読めてしまうから読者が直接内容を確かめられる」という、メディアとしての性質が大きいと思う。

すなわち「市場のないところで本をつくらなければならない」という意味の閉鎖性からも、「賞」に依存しなければならないという不自由さからも、現状のマンガ同人誌はかつての文芸同人誌に比べると自由である。
だからこそオタクのアマチュアリズムというか、アイデンティティがある程度確立されているということが、本作を観るとわかる気がする。

ただし、「焼畑文芸」メンバーの個々のキャラクターや、閉鎖的な雰囲気はそのまま現代のオタクの状況にもあてはまる気がしてかなり耳が痛い。
難しい難解な小説を書いて合評会でも自分の小説の批評を拒絶する男、頭でっかちな文学少女、仕事をそっちのけにして同人活動にふける文房具屋のオヤジ、等々。
ここでは、いくら集まってもけっきょく「自分の作品、他人の作品」という区別がついてしまう創作行為そのものの孤独を感じる。

そしてまた、それすらも解消しようとしたのが共通の作品で盛り上がるという「アニパロ」という形式だったのだと思うと、創作行為は「自分と自分以外」とか「群衆の中の自分」とは何かを考えさせる行為であることは、昔も今も変わらないと思うのだった。

なお、「この文学者はだれがモデル」とか、そういうのはぜんぜんわかりませんでした。これからネットで調べます。

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コメント

アレに出てくる文学者は、筒井が直木賞落とされたときの選考委員がモデルなので、

善上線引-松本清張
鰊口冗太郎-川口松太郎
雑上掛三次-村上元三
坂氏疲労太-源氏鶏太
明日滝毒作-今日出海
海牛綿大艦-海音寺潮五郎

だったと思います。

投稿: V林田 | 2007年5月 3日 (木) 12時04分

V林田さん>
お教えいただき、ありがとうございます。
なるほど、作中、SFが低く見られる文学の世界で、どうして「推理小説の大家」が直本賞の選考委員をやっていられるのかと思ったら、清張先生でしたか。
ぜんぜん関係ないけど、甲斐えつ子のオッパイはすばらしかったですね。
すばらしすぎて泣いた。

投稿: 新田五郎 | 2007年5月 4日 (金) 16時32分

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