・「鉄コン筋クリート All in One」 松本大洋(2007、小学館)
アニメ映画化に合わせて、全3巻を合本にしたもの。実際には94年頃に連載が終了していると思う。
猥雑で暴力的な街・宝町に住む、日々暴力によって生活している孤児・クロと、彼と行動をともにするがものすごい純粋さを持った少年・シロが、ヤクザたちとケンカしたりなんだりする作品。
……まあ、好きな人には申し訳ないが、期待が大きすぎて「……え?」という印象。
以下、ネタバレ感想。
本作、明らかに先のことを考えてなさすぎでしょう。そもそも鈴木(ネズミ)は、「街の性格すら変えてしまう男」と言われていたのに、早くも第三話あたりからレジャーランド建設には反対してる。理由は「街が変わってしまうから」だから、よくわからない。
古く猥雑な街、そこを地盤にするヤクザ、エネルギッシュな孤児たち、そして大規模な進出をもくろむ新興ヤクザ……という図式は完全に70年代あたりでも通用する基本設定。
しかし、このまま進めばワンパターンをなぞらざるを得ないと思ったのかどうか知らないが、お話はどんどん横滑りに滑っていき、クロとシロが引き離された段階で膠着状態とも言える印象になってゆく。
そして最後には「光」と「闇」の二元論がテーマとなり、街への新興ヤクザの進出は明後日の方向へ。
鈴木のエピソードもクロ・シロとは関係あるんだかないんだか、ということになってゆく。
さらに言えば、クロとシロがどこか南の海のある島だか浜辺だかを「理想郷」としてそこに行くための金を貯めているというのも、昔の映画にはとてもよくあった話。地元で、いやな思い出がいっぱいで、ゴチャゴチャしていて、暮らしていても旨みの少ない場所から逃れて青い海のあるところへ……というのはちょっと陳腐だと言わざるを得ない。
また、ヤクザの抗争話をウヤムヤにして「イタチ」という伝説のネコ(暴力的なガキ)を登場させて話をスピリチュアルな方向に持っていくというのも、これまたよくある話なのだ。
「ガキの登場する抗争もの」と言えば、21世紀の現在には我々は「シティ・オブ・ゴッド」という強烈にリアルで暴力的で、なおかつ不思議なカタルシスのある映画を目にしてしまっている。そういう意味では94年という、バブル崩壊後の(おそらく)架空の日本を舞台にした本作は分が悪いと言わざるを得ないのであった。
ただ、絵はものすごくいいんだけどね。
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