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・「金魚屋古書店出納帳」全2巻 芳崎せいむ(2003、少年画報社)

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マンガの古書店「金魚屋」に、古いマンガを探しに来る人々の人間模様。
えーと、今は小学館から出ているんだっけ? これは少年画報社版です。内容に違いがあるかどうかは、知らん。
とにかくなぜか私の周囲では評判が悪いマンガで、連載中にぼちぼちと読んでいたんだけどもこれはまとめて読まないと不評の理由がわからないなと思い、まとめて読んだ。

で、まあ本作に不満を漏らす人というのは、多少古本にこだわりのある人たちだね。
というのは、「背取り」(古書店から価値のありそうな本を抜いて別の書店に売りに行く行為)に仁義があるみたいなことを書いたり、マニアなのにお宝をあっさり人にあげちゃう描写があったりと、「マニアってもっと情け容赦なくてヒドいよなあ」と日頃思っている人間にとっては確かに甘いというか何というか……というところがある。
私も背取り屋のことはよくわからないけど、どうなんですかね? 普通見つけたらぜんぶ抜いてっちゃうんじゃないかな。
「古書店の店主に近い場所にある本はその店の目玉」というのはどこかで読んだ話だけど、そういう目玉商品に開店早々手を付けない、というのは古本マニアの仁義としてはあるらしいですよ。
だけれども、そういう本はたいていプレミアがついているから背取りの対象にはならないだろうしね。

あとさすがに苦笑したのが、
「おやおや サンコミと虫コミの 区別もつかないお子ちゃま達が えっらそうに」
っていうセリフね。
普通、サンコミと虫コミの区別は、小学生にはまず区別つきませんから(笑)。

作者は、「古いマンガマニアの世界、価値観」を示したくてそういうネームにしたんだろうけど、まあ現実にそういうセリフを吐く人はいませんね。

でだ。(ここからが大切)
でも、この作品って私は傑作だと思うんですよ。
というのは、毎回まいかい実在の古いマンガの思い出話がテーマになっているんだけど、
そのストーリーの組み立て方がうまい。

すでに終了している「サイボーグ009」にハマっている女子高生が、「009が連載中に生まれたかった」みたいなことを言うと、同級生の男の子が「オレ達のすごす時代の方が009に近づいていく」と言いきるところとか、
死を予感した病弱な中年男が、「死神」の出てくる「河童の三平」を読みたがったりとか、
謹厳実直な、とっつきにくい父親の唯一の楽しみが「ゴルゴ13」を読むことで、きっちりした父と暗殺に失敗のないゴルゴを重ね合わせるすでに成人した息子とか、
こういうのはかつてなかったし、あってもどこか背伸びをしている印象が出ざるを得なかったんですよ。
かつての「COM」などに、似たようなプロットのマンガが載っていてもぜんぜんおかしくないが、もしそうだとしてもそれは「マンガ」というもののプロパガンダの印象がずっと強くなったと思う。

映画や往年の名曲、落語なんかもそのタイトル、内容をイメージしたストーリーっていうのはあったけど、マンガだけはなかった。なぜなら、マンガには歴史がなかったから。ある時期まで「マンガの過去を共有する」ということはなかなかむずかしかった。

ところが今は、「金魚屋」のどこまで奥かがわからない巨大な書庫が象徴するように、マンガはその「歴史」を語っても遜色ないくらいの蓄積ができた。それを、本作は証明しているようで、古参のマンガオタクはみんな少なからず感動すると思います。

それともうひとつ、「サンコミと虫コミの区別もつかない」っていう批判が通用する場は、確かに現実世界ではきわめて少ない。たとえば「ガンダム」においてザクとグフの区別がつかなかったら小学生でも恥ずかしいと思うが、こと「マンガ全般」ということでいうとそういう「必修科目」のようなものは存在しない。
それが「マンガ」の古参のファンと現在のファンとを断絶させている原因になっていることも確かなんだが、逆に言えばそういう小姑みたいな存在が育ちようがなかったことが、マンガがここまで大衆に根ざし、広がりを持ったことの原因でもあると思う。
そういうことを感じさせてくれる作品です。

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