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【書籍】・「サンカの真実 三角寛の虚構」 筒井功(2006、文春新書)

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非農民であり、独自の信仰と掟、文字すら持っていたとされる「サンカ」のイメージを決定づけたのは三角寛の書籍だと言われている。
三角寛は「サンカ小説」という、通俗実録ものみたいなものを書いていたらしいが、それよりも「サンカ社会の研究」という研究書が出版され、学問的に参考にされてきたところが大きい。
本書は、その三角寛の業績を文献調査およびフィールドワークによって、「いかにインチキか」を暴いた本である。

80年代後半から90年代初頭、「日本の中世ブーム」とでも言うべきちょっとしたブームがあった。なぜこの時代が多くの人を惹き付けたかというと、非農民の生活が研究によって活き活きと描き出されていたからである。
確か「アジール」なんて言葉もこの頃から流行った。簡単に言うとドン百姓出身の我々が、それ以外の風俗・習慣に惹き付けられたこと、学校で習う「重い年貢にあえぐ貧農VS侍」という単純化した歴史観に揺さぶりをかけられたことが人気の理由だったろう。

ところが、「非農民」にもいろいろいるが、こと「サンカ」に関してはこの中世ブームでも大きく取り上げられた記憶は自分にはない。もちろん断続的に書籍が出版されたり、歴史雑誌などに載ることはあったが、あまり表立って取り上げられないのである。
なぜか。
それは、「サンカ研究をするにあたっての重要な資料」とされる「サンカ社会の研究」が、長らく出版(復刻)されなかったことと無縁ではないだろう。
通俗読み物の「サンカ小説」も、長らく古書店でしか購入できなかった。

そのようなわけで、「サンカ」は五木寛之の小説か、あるいは三角寛の書籍を読んだことのある人の書いた本という実にモヤモヤした情報源でしか知ることはできなかった(五木寛之の小説は読んでいないが、彼自身が三角寛の著作を参考にしていたことは想像に難くない)。

それを徹底的に批判したのが本書である。
厳密に言えば、私自身が三角寛の第一次資料を検討したわけではないから、ものすごく疑い深い目で読めば本書による批判が本当かどうか、ということも言えてしまうし、本書の中のフィールドワークは被差別の過去を持つ家に単身訪ねていく、という迫力あるものだがそれだって私が直接、厳しく真偽を検討したわけではない。
それを前提としたうえで、たとえば写真と年代の違いなどはおそらく疑いようのないものである。

また、三角寛の著作にかなりいいかげんな部分が含まれていることは、直接ではないにしろ他の歴史ムックなどでも指摘されているのを読んだ。どうも、相当創作が入っているようなのである(サンカの人々が持っているという両刃の小刀「ウメアイ」は三角寛が描くような形状のものではなく、「サンカ文字」なんてのはウソっぱちだそうである)。
このあたりのデバンキングはかなり面白いし、文章に気迫がこもっていると感じた。

でだ。その上で、ネット上での本書の感想を読んで感じたのは、「三角寛はそんなに突出してウソツキ野郎だったのか?」ということだ。
いやそりゃウソはよくないですよ。ことにその論文が大学で認められてしまったとあっては、サンカ研究にどれだけの悪影響を及ぼしたかしれない。

しかし、たとえば梶原一騎。梶原一騎が「実録」と称して物語にものすごい脚色をしていたのは言うまでもない。個人的に興味深いのは、「実録」をたてまえとしているのに、たとえばいきつけの店の名前なんかも変えていることである。梶原一騎にはドキュメンタリーを描こうという気はさらさら無く、さらに店の実名を出すことによるリアリティにも興味がなかったのだろう。

何が言いたいかというと、そのような作劇法は戦前から戦後のある時期まで、かなり普通のことであったのではないかということだ(繰り返すが、いいか悪いかは別である)。

三角寛は本書では新聞記者だったこと、また「論文」を発表してしまったことからぶっ叩かれにぶっ叩かれているわけだが、「サンカ小説」だけで終わっていたら、ここまであしざまには言われなかっただろう。
あきらかに一線を越えた罪はあるかもしれないが、このあたりは非常に微妙な問題である。

本書では三角寛の生い立ちから、「なぜそんなインチキをするようになったのか」というアプローチがなされているが、それだけではちょっと足りない。「フィクション」と「ノンフィクション」がものすごくはっきりと区別されるようになったのはいつ頃からか、というアプローチが必要だろう。
「実話」を元にしたおどろおどろしい毒婦ものなんかは三角寛だけが書いていたわけではないし、そういうフィクションとノンフィクションの中間みたいな領域は現在にもあるからだ。
それをどう受け止めるかは、読者のリテラシーの問題でもある。

もうひとつ思うのは「人々は信じたいことを信じてきた」ということだが、それについてはなんか別の機会に書きたいと思います。

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受信: 2007年4月22日 (日) 05時10分

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