・「愛欲の瀬降」 三角寛、真木村昆(1970、曙出版)
このエントリの関連で紹介する。
三角寛の「サンカ小説」の劇画化。まんだらけで1500円もした。表紙には「成人向」とあるが、現代から見てそれほどヤバいシーンはない。「文学博士 三角寛」という表記には今となっては問題があると思うがどうなんでしょうか。
絵柄はこの当時(60年代〜70年代初頭)に見られた典型的な「白土三平、小島剛夕」調。コマ割りは単調だし、ストーリー的にも見るべきモノはほとんどないと言っていいが、こういうものが刊行されたということを知る意義はある。
内容は、良家のお嬢さん・お浜が、武田勝頼の残した埋蔵金を掘り当てようとするフィアンセとともに旅に出る。
その旅先でお浜はサンカの親分「強瀬(こわぜ)の三吉」に捕らえられ、ムリヤリ妻にさせられてしまう。フィアンセを殺されたお浜は復讐を誓うが、さらわれてからフィアンセの子供を出産してしまったため子供のためを思うと三吉を殺すことができない……といった感じ。
続きはどうなる、どうなる、と次から次へとシーンが変わって最終的には人間関係の因果とか運命のいたずらとか、義理とか人情でお話が終わるという、まあ通俗的と言えば通俗的な読み物である。
ただし、執拗に説明がつくサンカの隠語(ほとんどが三角寛の造語だという)や、サンカ独特の服装、竹を切って鞘にし、その中に入れるサンカ独特の(三角寛が創作したという)両刃の刃物「ウメガイ」など、どうしても目が離せない部分があるのも確かだ。
とくにさらわれたお嬢さん・お浜が、三吉の妻となってからはサンカ独特の着物(むちゃくちゃ大ざっぱに言うと「カムイ伝」のカムイが着ているような感じのもの)を着ているのだが、その野性味ある色っぽさにハッとさせられたりするというかね。
おそらく「サンカ小説」は「一般人とは違う掟の中で生きる人々」に対する興味という点では、任侠ものや忍者ものと似た視点で読まれていたと思う。大半の読者は「論文」が出るまでは、サンカについても「忍者」と同じ程度にしか考えていなかったのではないか? 少なくとも都市部ではそうだっただろう。
(もちろんこの単行本の表紙に「文学博士」とうたってあるという問題はどこまでも残るのだが。)
「サンカ」が侠客や忍者と違いもっとも「差別」というデリケートな問題を含んでいたために、それを扱った小説も消えていった、ということなのだろう。
なおこの単行本は「サンカ文学劇画全集」として、ネットでざっと検索したらもう1冊あるらしい。だいたい相場も1冊1500円前後。確か原作の小説が刊行されていてまだ書店で購入できるので、この本自体を無理に購入する必要はないと思う。
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