【映画】・「犬神の悪霊(たたり)」
1977年、東映京都
監督:伊藤俊也、脚本:伊藤俊也
「工業所」の技術者・加納(大和田伸也)と他2名は、どこぞの山中(東北?)にやってくる。ウランを採掘するためである。
巨大なウラン鉱脈を発見して色めきたつ加納たちだったが、あやまって車で小さな祠を破壊、それに対して訴えかけるように吠え立てた犬をも轢き殺してしまう。
飼い犬を殺されたのは、「犬神筋」と言われ、村人から差別されている垂水一家の少年であった。
半年後、加納はウラン鉱脈を擁した山を持つ剣持の娘・麗子(泉じゅん)と結婚。犬を殺した加納に敵意をむき出しにする少年。
彼の姉・垂水かおり(山内恵美子)は、麗子とは親友同士であり、加納を密かに愛していたが、親友の結婚を祝福する。
そんなこんなでなんとか式を終えた加納と麗子は、東京で会社関係の人間も交えて披露宴をする。
が、このときにスピーチをした加納の同僚(小野進也)はとつじょ発狂、披露宴後にビルから飛び降りて死ぬ。
そして彼の通夜の帰り、もう一人の同僚も大量の野犬に襲われて死んでしまう。
麗子はこのことを極度に恐れ、加納が犬神を冒涜していたと知ってからは次第にノイローゼ状態になり、故郷でお祓いを受けることになるのだが……。
全編にわたる怨念、怨念、また怨念。怨念が怨念を呼び、復讐が復讐を呼ぶ。因習は温存され、利用され、近代と前近代、代々の差別と個人的な恨みが交錯、ホラー的方法が確立されないままに拙いながらも圧倒的な迫力を感じさせる怪作。
なんでも、ソフト化禁止の作品だそうで。「獣人雪男」とともに、とくに被差別集団が特定されているわけではない(まあ「犬神憑き」ってのは本当にあったかもしれないが、本作は架空の農村の話だし)ので、なぜそれほどタブー視されるのかが今ひとつわからない。
とくに、白土三平や山田風太郎の過去から変わらない作品評価や、80年代以降のポストモダン的史観(網野善彦とかあの辺の日本中世ブームとか、それを下敷きにした伝奇小説とか)を通過した現在、むしろモチーフそのものはわかりやすくなっていると言えるだろう。
ただ、映像関係には疎いので私の知らない問題点があるのなら、すいませんとしか言いようがないのだが。
本作の魅力といえば、結果的に、ということではあるがその破綻した展開だろう。
そもそも、「犬神筋」というのは垂水の一家であるはずなのに、後半からは「親友のかおりを愛した加納に対する麗子の怨念」ということになってしまって、怨霊が何なのかがまったくすりかわってしまっている。
それとも犬神が麗子の怨霊を呼び寄せたってことなんですかね? ますますわからん。
クライマックスでは麗子の妹・磨子(長谷川真砂美)に麗子の霊が乗り移り、麗子の赤い着物(襦袢?)を着た磨子が飛んだり跳ねたり、サーカス団員か忍者もかくやと思われる運動能力で加納を翻弄。最終的には一騎打ちとなる。
クライマックスもよくわからないことになっていて、本来「犬神筋」という差別を抱えた村の娘である麗子、あるいは被差別者・かおりおよびその父(室田日出男)の問題であったはずが、「村の因習に介入し、なおかつウラン採掘という「近代化」をもたらした罪によって何もかも失ってしまう加納」という方向にスポットが当たる。
いやさらにその前に、差別してきたことの報いを受けてきた麗子の父の葛藤が語られたりもして、もうこの辺はグチャグチャなのである。
しかし、そのグチャグチャさが捨てがたい魅力になっていることも確かである。
これが「閉鎖的な村の差別的な因習を告発」というだけなら、普通の映画になっていたはずである(しかし、そもそも被差別者たる「犬神筋」が本当に一種の超能力を持っている、という設定自体がおかしい話で、その発端そのものがプロットをいじくればいじくるほど矛盾した作品になっていく、ということも言えるのだが。)
最後の最後も本当にムチャクチャ。ラストシーンでは映画館で他のお客さんも当惑の笑いを漏らしていた。まあしかし、それが70年代東映のまぎれもない魅力なんだけどね。
美しく知的な少女と、けもののように飛び回って加納を苦しめる少女を演じ分けた子役・長谷川真砂美は熱演(この「子供に怨霊が取り憑く」というのは「エクソシスト」[amazon]の影響だろう)。あまりおいしい役ではないとも思うのだが、本当に斉藤こずえや「おしん」の小林綾子同等に褒めてあげたいくらいであった。
で、ググったら長じて薬師丸ひろ子の「ねらわれた学園」[amazon]で高見沢みちる役を演じたそうである。いや本当、将来美人になりそうな顔立ちの子だったんですよ。
主演格の泉じゅんもいいが、山内恵美子(山内えみ子)は、イモっぽさにも鋭い美しさがあっていいよなあ、と思った。
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